第25話 初めての依頼
街を散策し、いろいろな買い物をした翌日。
朝、日が昇る前に起き、時精霊の隠れ家をあとにしたオレとキューレは、さっそく冒険者ギルドへと来ていた。
ちなみにピクシーバードにはオレたちが宿に戻ったあとも街をくまなく回らせ、王都の最新マップはすべて埋め終わっている。
今は一羽をのぞいて、次は王都周辺のマップ埋めのために飛ばしていた。
本当はユニット枠をすべて使ってピクシーバードを召喚すれば、あっという間に周辺マップを埋めることはできるのだろうが、まぁ焦る必要もない。
今でも十分なハイペースでマップに情報が書き込まれているのだ。
そもそもオレの確認が追い付かないしな。
せっかくの異世界だし、あわてずゆっくり堪能させてもらおう。
「しかし、やはり朝はすごい混んでいるな」
昨日リナシーから「朝はすごい混んでいて大変なんですよ~」と話を聞いていたが、思っていた以上にすごい人だ。
この王都の正確な人口はわからないが、少なくとも数十万人は住んでいる。
そんな大都市の冒険者ギルド。しかもこの国のギルド本部にあたる場所だ。
多くの冒険者が在籍しているだろう。
おとといオレが冒険者登録に来たのは、昼の人が少ない時間帯だったらしいが、それでも裏の訓練場でギルドマスターのガンズと模擬戦を繰り広げていた時など、すごい数の冒険者が集まっていた。
それを考えると、この混み方も当然と言えば当然か。
ただ、それだけ多くの冒険者がいるということは、おとといの一件を知らない冒険者も大勢いるということで……。
「よう! もしかして新人かい? 良かったらうちで面倒みてやろうか?」
さっそくキューレに声をかける奴らが現れた。
ただ、おとといと違い、それを止めるものがいたので面倒ごとはさけられそうだ。
「おまっ⁉ 馬鹿!! その子は……その方は今話題のAランク冒険者だぞ!!」
「はっ? お前こそなに馬鹿なこと、を……まじか?」
止めに入った冒険者仲間の言葉だけなら、信じなかったかもしれない。
だが、自分が周りからすごい注目を浴びている事に気付いて、それが真実だということに気付いたようだ。
「し、失礼しました!!」
どうやらこの間の奴らみたいな、根っからの悪い奴ってわけではなさそうだ。
直角になるほど頭をさげたそいつは、そのまま逃げるようにオレたちの前から去って行った。
「しばらくはちょっと面倒そうだな……」
「主さまが望むなら、排除いたしましょうか?」
「い、いや……やめてくれ。そんなことしたら国から指名手配されてしまう……」
指名手配されても、さほど気にせず生きていけるほどの戦力を保持している気がするけどな。
「それより、依頼を受けに来る時間はちょっと考えた方が良さそうだな」
依頼ボードの前などは、バーゲンで商品を奪い合うおば様たちを彷彿とさせるほどの混み具合だ。
まぁ高ランク冒険者の場合は依頼は担当受付嬢から提案してもらえるようだから、あそこに行かずに受付の列に並ぶだけでよいのは本当に助かった。
だが、今日に限ってはそれすらしなくてもすみそうだ。
「レスカさま! キューレさん! こちらです! こっちこっち!」
昨日、明日は朝から冒険者ギルドに行くつもりだと言っていたからだろう。
リナシーに声をかけられ、受付カウンターの方ではなく、二階にある個室の方へと案内された。
「朝は忙しいと言っていたのに悪いな」
「いえいえ! 逆に煩雑な朝の受付を免除して貰って感謝しているぐらいですよ!」
話を聞いてみると、今日オレたちが朝一で冒険者ギルドに来るかもしれないと朝会で報告したら、受付カウンターの担当を外されて奥で事務仕事をするように上司から言われたらしい。
「そうか。それなら良かった」
「それで、今日は依頼を紹介するってことでいいんですよね?」
「あぁ、良さそうなのがあればすぐにでも受けてみたいと思っている」
本当は異世界を数日ゆっくり堪能しても良かったのだが、まずは自分の能力を確認したかったので、それならついでに討伐依頼でもうけようと思ったわけだ。
そもそもちゃんと能力の確認をしようと思うと、とてもじゃないが街中ではできないしな。
「えっと、討伐系の依頼がいいってことだったので、いくつか良さそうなのを選んでみたのですが……どうですかね?」
リナシーはそう言うと持っていた書類ケースから紙を何枚か取り出し、依頼の内容が書かれた用紙をオレたちが見やすいように机に並べてくれた。
「一枚目と二枚目が同じような内容で、Cランク冒険者パーティーによくお願いしているゴブリンの集落殲滅の依頼です」
うん、それはゲーム時代だとレベル10~15ぐらいに向けた依頼だな……。
「そして三枚目がBランク冒険者向けのはぐれオーガの討伐依頼……なのですが、こちらは出現場所がまだ正確に把握できていないのであまりお薦めできませんね」
オレの場合はだいたいの場所さえ教えて貰えれば見つけるのはわけないのだが、普通は場所が特定できていない依頼は嫌がられるのかもしれないな。
その辺りを隠さずに話してくれるのは、こちらのことをちゃんと考えてくれているようでありがたい。
「それで最後、四枚目ですが、こちらはBランクパーティー向けのプレデターキャットの群れの討伐依頼です。プレデターキャットは一頭でもかなり手強い魔物なので、できればこの依頼を受けていただけると助かります。本当なら初めての依頼でお願いするような魔物ではないのですが、お二人の強さは突出しておりますので全く問題ないと判断させていただきました」
「なるほど。ちなみにそれぞれの依頼の場所はどの辺りなんだ」
「あ、はい。すみません。えっと……」
一枚目のゴブリン集落をのぞいて、全部、王都の北に広がる大森林か。
「よし、それじゃぁ一枚目の……」
「あ、はい。一枚目のゴブリンの集落殲滅依頼ですね。初めての依頼ですもんね」
リナシーは四枚目の依頼を受けて欲しかったのだろう。
少し残念そうな顔を見せるが……それは勘違いだ。
「違うぞ。一枚目の依頼をのぞいて、他の依頼三つを受けさせてもらおう」
「は、はぃぃ⁉」
驚くリナシーを見て、オレは昨日の買い物の意趣返しができたことに、ちょっと意地悪な笑みを見せたのだった。
まぁキューレにと薦めてくれた服はどれも良いものだったし、本当は感謝しかないんだがな。
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