第24話 大切な相棒

 そこにいたのは、冒険者ギルドで受付嬢をしているリナシーだった。


 ただ服屋で会ったというだけなら、偶然ということもあるかもしれないし、そこまで不思議なことではない。


 でもリナシーは、今も何か仕立ての仕事をしているように見える。

 どういうことだ?


「リナシーこそどうして服屋こんなところで働いているんだ? 冒険者ギルドの職員じゃなかったのか?」


 そんなはずはないと思いつつも、リナシーに疑問をぶつけてみる。


「あははは。ちゃんとれっきとしたギルド職員の花形受付嬢ですよ~」


 花形なのかどうかは知らないが、そりゃぁそうだよな……。

 昨日、受付担当になって貰ったばかりなのだ。


「実はここ、私の実家なんですよ。今日はギルドの方は休みなんで家のお手伝いをしているんです」


「なるほど。そういうことか」


 しかし、これほど広い王都でリナシーの実家の店に入るとは凄い偶然だな。


「はい。それで、レスカさまは今日は服をお求めで?」


「あ~……オレではなく、キューレに服をと思ってな」


「わぁ♪ 素敵です! キューレさんにプレゼントされるんですね♪」


 ストレートに言われるとちょっと恥ずかしい……。


「あぁ、まぁそんなところだ。そうだ! リナシー、オレはこのじだ……この国の流行りの服というのがわからない。キューレに似合いそうな服をいくつか見繕ってくれないか?」


「え!? 私が選んじゃってもいいんですか♪」


「もちろん買うかどうかは、キューレが気に入ればの話だからな。キューレもそんな感じいいか?」


「はい。でも、出来れば主さまも一緒に見て頂けますか?」


「あぁ、もちろんだ。一緒に選ぼうか」


「はい!」


 しかし、正直知り合いがいて助かった。


 昨日の様子だとキューレも服の好みとかありそうだが、今のこの国の流行りとかまではわからないだろうし、オレはそもそも女性ものの服はどれがいいのかさっぱりわからない。


「じゃぁ、すぐにいくつか見繕ってきますので、どうぞそちらに掛けてお待ちください!」


 リナシーはそういうと、まるでスキップでもするかのように奥へと走っていった。


 言われたように来客用に用意された椅子に座って待っていると、五分と待たずにリナシーが戻ってきた。

 女性の服選びは時間がかかるものと思っていたが、さすがプロといったところだろうか。


 まぁ本職はギルドの受付嬢なんだろうが、実家ということだし子供の頃から側で親の仕事を見てきたはずだろう。きっと年季が違う。


「まずは街着にこのような組み合わせはどうでしょうか?」


 それからキューレのちょっとしたファッションショーが始まった。

 やはり着てもらわないとオレもよくわからないからな。


 元の世界の下手なタレントが吹き飛ぶほどの美少女だ。

 見ているだけでもなかなか楽しかった。


 特にキューレのスカート姿など見たことがなかったのですごく新鮮だったし、もちろん最高に似合っていて可愛かった。


「あとこちらは宿でおやすみになる時などにいかがでしょうか?」


「なっ!? そ、そんな服まであるのか!?」


 いろいろと街着を選んだあと、リナシーが持ってきたのはパジャマだった。

 ネコミミフード付きの……。


 え……これ絶対にオレ以外にも誰かこの世界に来ているんじゃ……。


「こ、これは誰が考えたんだ?」


「え? こちらはずっと昔から、それこそ三〇〇年前からある定番の寝巻ですよ?」


 あ、そうか……。

 ゲームでは、この手のアイテムは豊富にあったな……。


 この世界の文化を変な方向へ歪めている気がしてちょっと申し訳ない気分になったが、反面よくやったと思ってしまったのは黙っておこう。


 ◆


「本日はたくさんの服をお買い上げいただき、ありがとうございました! 最優先で仕立てますので、明日の昼以降であればいつでもご都合の良い時にお越しください! 次は冒険者ギルドの方でもよろしくお願いしますね!」


 ギルドマスターのガンズが、リナシーを物おじしないのでオレの担当に向いていそうだと言っていた理由がわかった気がする。


 異邦人は貴族相当の扱いだし、隣国の悪い噂などもある。

 普通なら壁を作って一定の距離をおこうとしそうな気がするが、リナシーからはそう言ったものは一切感じない。


 今日なんてリナシーの提案されるままにほとんどの服を買ってしまったしな……。


 と言っても、リナシーの服選びのセンスは良かったし、どれもすごく似合っていたので買ったことに後悔はない。

 それどころか、キューレは今もにこにこして喜んでくれているほどなので、かなり感謝している。


「とりあえずこれで今日の目的の一つは達成したことだし、そろそろお昼とするか」


「え? 私の服を買うのが今日の目的だったのですか?」


 しまった……キューレへのプレゼントが無事に買えてホッとしたせいで、つい口走ってしまった……。


「あ、いや、まぁ……そ、そうだな。オレ用の服や装備は山ほどアイテムボックスに入っているが、キューレ用のものがなかったからな」


 仕方ないのであきらめて本音を明かす。


「主さま……ありがとうございます!! ふたたびお呼びいただけると信じて待っていて本当に良かったです!」


 そうか……オレにとっては一瞬だったが、キューレは最後にオレがユニット召喚してから三〇〇年もの長い間、ずっと待っていてくれたことになるのか……。


 そのことに気付くと、本当に感謝してもしきれない気持ちになった。

 これからまたゲームの時のように、いや、それ以上に大切な相棒としてこの世界を共に生きて行こう。


 あらためてそう思ったのだった。

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