第7話 格納庫
すり寄ってきたナイトメアの鼻を撫でてやると、気持ちよさそうに目を細める。
移動中に敵や魔物に襲われても軽く返り討ちにしてくれる頼もしいやつだが、こうしてみるとかわいい馬にしか見えないな。
ただまぁ、かわいいというにはかなりの巨体なので人によっては怖いと感じると思うのだが、ミンティスが馬が好きというのは本当のようだ。
「あの、私も……いいですか?」
少し恐る恐るではあったものの、オレの後ろから近づくと同じように鼻先を撫でようと手を伸ばしてきたのだから。
「え? あぁ、かまわないぞ」
「こうして落ち着いて見てみると、瞳がつぶらで可愛いですね」
「あぁ、そうなんだよ。わかってくれるか」
褒めてくれるのは嬉しいが、でも一人の時はしないように言っておかなければ……。
「ミンティスが馬好きで良かったよ。でも一応魔物だから、オレがいない時は気を付けてくれ」
「あ、はい。申し訳ありません」
「いや、謝るようなことではない。オレも自分のお気に入りのユニ……魔物を褒めて貰えるのは嬉しいからな」
ミンティスとしばらく話をしてわかったのだが、ユニットという言葉が通じなかったので言いかえるようにしている。
しかし、ミンティスから見てオレのこのユニットを召喚したり操ったりする能力は、どのようにとらえられているのだろうか。
ゲームの中では、オレたちプレイヤーは異邦人と呼ばれていた。
外国や異国の人という意味ではなく、設定上は神様から異なる世界の力を授かった人という意味らしい。
そして、こちらの世界でもどうやら異邦人といわれる者たちは存在し、認識はだいたい一致していた。
だからオレ以外にもプレイヤーがこの世界に存在するのかと思ったのだが、ゲームで使用していた能力や言葉は通じなかった。
ユニットという言葉すら通じなかったので、もしかするとオレは、この世界での異邦人とはいろいろ異なる存在なのかもしれない。
とりあえず、能力的にこちらの異邦人の常識から離れすぎていると悪目立ちするので、あまり強力すぎる能力やユニットはしばらくの間は使用を控えようかと考えている。
どの辺りの能力までなら大丈夫なのか?
これからそのあたりは少しずつ確認していかなければいけないだろう。
個人が騎士団なみの戦力を保持していると知られれば、脅威とみなされて排除されるかもしれない。
だから状況も把握しないうちに力を誇示するのはさけたい。
まぁそういう意味でもナイトメアは、パッと見は普通の馬の魔物にしか見えないのでちょうどいい選択なのではないかと思っている。
「ミンティス、ちょっと離れてくれるかな」
「え? は、はい」
もしかしてナイトメアに跨っていくつもりだったのか?
鞍はついてるしデカいので二人で乗れないこともないのだが、美少女と密着して何時間も走るなんてオレの精神力が持たない……。
「格納庫から馬車を出す」
オレはそう言うと、格納庫メニューからお気に入りの馬車を選択すると取り出してみせた。
ユニット召喚時のような派手な
このあたりはゲームと同じように機能するみたいで少しホッとした。
「えっ!? レスカ様は最高位の異邦人だけが使えるという希少な空間魔法まで使えるのですか!?」
ん? どういうことだ?
プレイヤーならレベル25になれば解放される能力なんだが……。
よくわからないが、異邦人なら使えてもおかしくない能力なら大きな問題はないか。
「んん、あぁ……とりあえずあまり口外しないように頼む」
ただ、最高位の異邦人だけが使えるという言葉が気になったので、あまり口外しないようにお願いしておいた。
「わ、わかりました。ご、極秘事項なのですね」
うんうんと頷く姿は少し可愛いが、そんな大げさにとらえなくてもいいのだが……。
「そ、そうだな……。まぁ内密に頼む」
オレはそんな話をしつつ、慣れた手つきでナイトメアを馬車に繋ぐ。
しかし、オレはここでふと問題に気付いた。
御者ができるような人型ユニットを召喚すべきかどうか……。
それはそのような知性を持つユニットが、すべて高レベルでしか召喚できないユニットだからだ。
まぁナイトメアもレベル65で知能の高いユニットなのだが、見た目だけなら他の馬の魔物と大差ないし、珍しい魔物だから知る人間も少ないだろう。
そもそも人の言葉を話す事はできないのでそうそうバレることはないと思う。
さっき守りのために呼んだアダマンタイトナイトはどうだろう?
あれもレベル50とそこそこ高レベルだが、リビングアーマーに属する鎧が本体の魔物なので言葉は話せない。
そうだ! 通常のリビングアーマーならレベル20で呼べる!
見た目は鎧の材質が違うだけで見分けがつきにくいから、リビングアーマーだと誤魔化しがきくはずだ。
「じゃぁアダマンタイトナイトでいいか」
そうだ。
アダマンタイトナイトも知能はそこそこ高いし、御者ぐらい出来るはず。
【ユニット召喚:アダマンタイトナイト】
ふたたび現れたアダマンタイトナイトに息を飲むミンティス。
そばで見ると結構な迫力があるからな。
「アダマンタ……おい。御者を頼むことはできるか」
オレがそう問いかけると、アダマンタイトナイトは静かに頷いてくれた。
まぁできないなら頷きはしないだろう……たぶん。
会話が出来て自立行動のできる完全な人型ユニットを召喚すれば早いのだが、この現実となった世界でAIがどのような形になるのか不安だ。
それに、高レベルにしか存在しない人型ユニットを呼び出すなどこの世界の異邦人には無理かもしれない。
もう少しいろいろとわかるまではやめておこう。
「あとは……念のために警戒用のデミファルコンを呼んでおけばいいか」
【ユニット召喚:デミファルコン】
デミファルコンはレベル1のユニットだが、制限が解除された今なら強化してあるのでレベル20程度の強さを持っている。
先行させて偵察させたり、弱い魔物を蹴散らすにはちょうどいいだろう。
こうしてオレは、ミンティスとともにベルジール王国へと向けて出発した。
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