オレだけクォータービューで戦場を支配する~あらゆるユニットを召喚して異世界を救うキャンペーンのクリアを目指します~
こげ丸
第1話 ベルジール戦記
「くっ、いてぇ……」
思わず口からこぼれた呟きは、草原に吹く生暖かい風にかき消された。
「ほんとに、いったいどうなってるんだよ……」
さっきまで、たしかに『ベルジール戦記』で遊んでいたはずだ。
ベルジール戦記とは、プレイヤー同士、またはCPUと対戦するシミュレーション要素を含んだVRMMORPGだ。
中世ヨーロッパをベースとしたファンタジー世界の中で、魔法や戦技を持った多種多様なユニットを駆使し、さまざまな局面を戦い抜いていく知略と駆け引きが醍醐味の人気ゲーム。
「それがどうして……」
そう……それがどうして……こんな……。
「い、いてぇ……」
オレの足に刺さった矢が、これはVRではないことを嫌でもわからせてくる。
「現実……だよな……」
草原に身を伏せていたオレは、少し前に起こった出来事を思い返していた。
◆
数時間前、オレは自分の身に何が起こったのかわからず、最後の記憶をたどりよせていた。
「あ~オレはなんでこんな所にいるんだ……いったい何してたっけ……」
さっきまでベルジール戦記で遊んでいたのは確かだ。
思い返してみると、既にこの時に違和感を感じていたのかもしれない。
遊んでいたのはベルジール戦記だ。
それは覚えている。
ん~さっきまで何をしていた?
たしか……。
「今日も
「ほんと
ついさっきかけられたそんな言葉を思い出す。
『不敗のレスカ』
いつの間にかそう呼ばれるようになっていた。
自分で言うのもなんだが、オレはこのゲームではかなりの有名人だ。
オレの持つユニット兵団は一度も負けたことがなく、『不敗のレスカ』と言えばこのゲームにのめり込んでるプレイヤーなら大抵知っているんじゃないだろうか。
そして今日は、所属している国の
「そうだ……戦いに勝って気分良かったから街を散策していたら……」
ベルジール戦記の醍醐味は戦闘なのは間違いないが、それ以外にも街の酒場でフレンドと話したり、観光名所を巡ったり、店を営んだりと、さまざまな楽しみ方ができるようにゲームデザインされている。
オレは寝る間も惜しんで戦闘に明け暮れていたが、たまに気分転換で街を散策するのも好きだった。
だが、それでもあくまでもメインコンテンツは大規模戦闘だ。
「そう……そうだそうだ! キャンペーンが始まったんだった!」
基本的に大規模戦闘は、ゲーム開始時に選択した所属国からキャンペーンという形で依頼が発行され、その依頼を受ける事で参加する形になっている。
だから普段から公式が発表するキャンペーン予告などをもとに有給休暇をとって、いつもまっさきに参戦しているのだが、今回は……。
「突然だったよな?」
オレは普段から、公式サイトだけでなく情報サイトやSNS、巨大掲示板などを常にチェックしている。
一番楽しみにしているキャンペーンの情報を見逃すはずがない。
ゲリラキャンペーンなどのシステムが実装されたのだろうか?
いや……システムアップデートの重要な情報なら、なおさら絶対にチェックしているはずだ。
そんなことを考えながらもオレは、いつも通りに「キャンペーンに参加する」を選択し、次に気付いた時には……そうだ!
「そう言えば、今回のキャンペーンって内容の説明なかったよな? どういうことだ? ついいつもの癖で反射的に即キャンペーン参加の操作しちゃったけど……」
いつもキャンペーンに参加する時には、そのキャンペーンの概要が表示される。
だが、今回はいきなり選択肢が表示されていた。
「しかし……ここはどこに飛ばされたんだ? ファストトラベルにしては荒い飛ばし方だよな……」
このベルジール戦記の世界は広い。
普通に移動するととんでもない時間がかかってしまい、ゲームとして成立しなくなってしまう。
そのため、転移ポイントが解放されていれば自由に転移できるようなシステムになっている。
あえてファストトラベルを使わないで世界の広さを楽しむ人たちもいるようだが、そんなことをしていれば各地で発生する戦闘に間に合わないので、オレはもちろんガンガン使っていた。
だから、キャンペーンに参加したことでどこかの戦場に強制転移させられたのかと思ったのだが……。
「ここ……なにもないな……」
目の前の丘陵のほかは見渡す限りの草原が続いており、どこかで戦いが起こっているようには見えない。
定番のキャンペーンと言えば、他国との戦争、魔物の大発生によるスタンピードや大盗賊団討伐などなのだが……。
「だけど、どれでもない」
そんなことを考えていた時だった。
遠くからかすかに女性の悲鳴が聞こえてきた。
「お? イベントか? いよいよキャンペーンが始まるのか?」
オレはキャンペーンにはすべて参加しているが、今までこんな形で始まるキャンペーンは経験がない。
だけど、プレイヤーの女性がリアルで悲鳴をあげるとは思えないし、きっとこれはキャンペーンに関係するイベントに違いない!
そもそも他にめぼしいものが何もない草原で、女性の悲鳴が聞こえてきたのだ。
「なんか腑に落ちないこともあるけど……これは行くしかないよな!」
オレは自分でもなにかよくわからない違和感を覚えながらも、動き出したキャンペーンのわくわく感を抑えきれず、悲鳴の聞こえてきた方へと駆け出したのだった。
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