第2話 キャンペーン
悲鳴が聞こえてきたと思われる丘の向こうへと歩みを進めていた。
全体的になだらかな丘陵で見通しはいいのだが、ちょうど今いる地点が凹んでいる場所になるため、丘の向こう側は見えない。
「少し警戒をあげた方がいいか。突然戦闘になってもいいように、もうウォーモードに切り替えて護衛ユニットを召喚しておこう」
このベルジール戦記では、戦闘時以外は通常モードという最低限必要な情報だけが画面上にAR表示されている形でゲームは進行する。
だけけどこのゲームは、シミュレーションゲームの要素も含んでいる。
それらの情報だけだと的確な指示を出す事など出来ないし、戦略を練る事もできない。
だから戦闘時にはクオータービューやユニットビュー、各種コマンドメニュー、戦略メニュー、物資メニューなど、さまざまなウィンドウを全周囲に展開し、戦況を分析しながら指示を出して戦いをすすめていくことになる。
これらの情報の中からどの情報をどのように表示しておくかはカスタマイズできるようになっており、戦いにも大きく影響する。
オレの場合はかなり情報過多な表示になっていているが、オレはすべて必要だと思っているし見にくくもない。
まぁこの辺りは人によって好みがかなりわかれるところだろう。
そしてウォーモードでしか出せないユニットコマンドなどもある。
ユニットコマンドとは、オレの兵団に所属するユニットを召喚、配置したり、呼び出したユニットへ指示をだしたりするための戦闘のメインとなるコマンド群だ。
つまりユニットを召喚して100%の力を発揮させるためには、まずウォーモードに切り替える必要があった。
「さぁ、遊戯の時間といこうか」
つい癖になってしまっている中二な言葉をつぶやいてしまったことに少し恥ずかしさを覚えながらも、慣れた手つきでウォーモードに切り替えるジェスチャーをする。
「ウォーモード!」
システムがその言葉とジェスチャーを受けて、大小さまざまなウィンドウがオレの周りに展開されていく。
沸きあがる高揚感。
オレはこの瞬間がたまらなく好きだ。
しかし見慣れているはずのウィンドウは、見慣れない光景をオレに見せていた。
「ん? なんだ?」
ウォーモードに切り替わったものの、すべてのメニューが
いや……すべてではないか。
大半のメニューは灰色で表示されて使用できなくなっている。
だが、ゲーム開始時から使えるクオータービュー、つまり上空斜め上から見た俯瞰視点でのマップ表示はされている。
それから、ごく一部のユニット召喚などのコマンドは使用可能なようだ。
「なんだこれ? 制限付きのキャンペーンなのか? それにしてもこれは酷すぎるだろ……」
今までにも、ユニットの召喚数に制限がつくキャンペーンや特定のユニットしか使えないキャンペーンなどはあった。
だが今のこの状態はまるで……。
「なんだかゲームを始めたての頃を思い出すな……って、え? ちょっと待て……」
そうだ……レベル2以上でしか使えないものはすべて使用不可になっている。
だが、レベル1でも使用できるコマンドや機能だけは使用可能なようだ。
まぁ本当のレベル1だと、レベル2以降のコマンドや機能などはそもそも表示されていないので、見た目が同じというわけではないのだが。
「いや、そんなことより現状把握だ」
自分の周囲に展開しているウィンドウを確認していくが、やはりレベル1に制限されていると考えてよさそうだ。
そして……自分のステータス画面を確認して、その考えが間違っていないことがわかった。
「いやいやいや……マジかよ……」
ステータス画面にはさまざまな情報が表示されている。
所持しているユニットの総数、使用できる特殊コマンドの一覧、お金やオレ自身のステータス……そしてもちろん自分のレベルも……。
「本当にレベル1に制限されているようだ……なんてキャンペーンだよ……」
さすがにそれはないだろ……。
いくらオレが『不敗のレスカ』と呼ばれていても、これでは勝てない。
今のこのベルジール戦記でのレベルキャップは80なんだぞ……。
という事は、今呼べるユニットは……。
【ユニット召喚:デミファルコン】
コマンド操作を実行すると魔法陣があらわれ、登場演出を経て鳥の魔物デミファルコンが出現した。
遠くから見ると普通の鷹のようにも見えるが、体長は1m、翼開長は2mを超え、羽を4枚持つれっきとした魔物だ。
「こいつだけか……まぁ嘆いてばかりいても仕方ないか。よろしくな」
デミファルコンはまるでその言葉にこたえるようにピーとひと鳴きすると、上空へと舞い上がって旋回待機をはじめた。
しかし、呼べるのがデミファルコンだけだとすると色々厳しいな。
デミファルコンは偵察にはたまに今でも使っているが、戦闘力はかなり低い。
もうちょっと今の状態を調べてしっかりと把握しておいた方がいいか……と思ったのだが、状況は待ってはくれなかった。
「あ、あなたたちは何をしているのかわかっているのですか!?」
そうだ。もうキャンペーンは始まっているんだ。
序盤で行動選択をミスると取り返しがつかないこともある。
「デミファルコン! 先行して偵察だ!」
オレが音声で指示を飛ばすと、もう一度ピーとひと鳴きしてから丘の向こうへと向かっていく。
細かい指示を音声で行うのは難しいが、簡単な指示であれば音声の方が使い勝手がいい。
デミファルコンが移動する事によって、視界の隅にAR表示されたクオータービューに情報が追加されていく。
しかしレベル1だと偵察できる範囲が狭く、そもそもユニットビューというユニット視点に切り替える機能も解放されていないため、丘の向こうの様子を確認することができなかった。
「ユニットビューはレベル5で解放されるんだった……。仕方ない、オレも急ぐか……」
レベルが上がれば、いちいちユニットビューに切り替えなくても偵察ユニットを飛ばす事でクオータービューで様々な情報を確認できるようになる。
だが、それ以前にレベル1だとユニットビューにすら切り替えられないという事を忘れていた……。
自分の眼で確かめられる場所まで行くしかない。
「やっかいなキャンペーンを受けてしまったな……」
オレはひとり愚痴をこぼしながらも足を速める。
そして……丘を越えたオレの目に飛び込んできたのは……。
「え……? ちょ、ちょっと待てよ!? これは理不尽すぎるだろ⁉」
森から溢れ出したゴブリンの大群だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます