第10話 王城
ミンティスとセイグッドの話が終わるのを待ってから、オレとミンティスはもう一度馬車に乗り込み、セイグッドたちに先導される形で街に入った。
王都ベルジールはかなり広い。
それはゲームでも同じなのだが、オレの知っている王都より明らかに広い気がする。
それに馬車から見える王城はゲームと変わらぬ姿に思えるが、さっき見た街の城壁はゲームで何度も見たものとあきらかに違っていた。
オレの記憶にあるものよりずっと城壁が低いのだ。
半分ほどしかないのではないだろうか。
「ここは本当にベルジール……だよな」
思わず考えが呟きとなって洩れた。
街そのものは、オレの知る王都ベルジールよりも明らかに発展している。
しかし、戦いへの備えは後退しているようにも思える。
前を歩くセイグッドの着る鎧もそうだ。
近衛騎士ならではの煌びやかで豪華な鎧だが、ゲームで見たものよりも性能は劣るように見える。
だけど、今も見える巨大で優美な白い王城は見慣れた姿のそのままだ。
それがオレをより一層混乱させた。
「どうされましたか? もしかしてレスカ様はこの街にこられた事があるので?」
オレが窓の外を眺めながら考え事をしていたからだろう。
ミンティスがオレの様子に気付き、声をかけてきた。
「いや……話で聞いたことがあるだけで来るのは初めてだ」
言葉に嘘はない。
本当に
ミンティスに聞けば何かわかるかもしれないが、何から確認すればいいのか整理がついていない。
それに、もう王城に着きそうだ。
夕日に照らされて朱に染まった王城の美しさが、今だけはなんだか冷たいものに感じた。
◆
それから一〇分ほどあと、オレたちは王城に到着した。
すると、先ぶれが到着していたのか、城門をくぐるとすぐに迎えの者たちが大勢現れた。
その中でも一人、ミンティスと同じぐらいの歳に見える少女が泣き崩れていた。
「み、ミンティス殿下~……よ、よくぞご無事で~……」
馬車から降りたミンティスの手を握り、目に大粒の涙を浮かべているのは専属侍女のアリアという者らしい。
「アリアもよく無事で……」
目に涙を浮かべているのはミンティスも同様のようだ。
「わ、私も大怪我を負いましたが、ひっく……た、たまたま近くを通りかかった聖光教会の司祭様が、司祭様が回復魔法をかけてくださり、一命をとりとめる事が……で、でもミンティス殿下が攫われたと聞いて……わ、わたし……え~ん……」
「レスカ様のおかげで助かったの。アリアも大変だったわね。それに、心配かけたわね」
まるで姉妹のように仲の良さそうな二人を少し離れたところから眺めていると、近衛騎士のセイグッドが話しかけてきた。
この場には多くの人がいるのだが、どうやら最初にオレと話したからか、オレの担当になったようだ。
「レスカ殿。此度はミンティス殿下を助けて頂いただけでなく、ご協力感謝いたします」
「いや、礼にはおよばない」
礼はさんざんミンティスに言われたし、そもそもキャンペーンに参加したことで成り行きで助けた形だ。
あまり礼だ何だと言われると、ちょっと後ろめたいものがある……。
「いや、すまないが、そういうわけにはいかないのだ。どうか、今日は城に泊まってくれないか? もう日も暮れる。明日の朝あらためてこちらから伺わさせて欲しい」
「そうか。それなら今日はお言葉に甘えることにするか」
正直言うと今晩どこに泊まろうかと不安だったので、ちょっと助かる。
「感謝する。それで、馬の魔物は異邦人なら送還するとして、この馬車はどうすればいい?」
「うん、あぁ~、まぁそれも問題ない」
オレは手早くユニットコマンドを操作すると、アダマンタイトナイト、ナイトメアを送還し、格納庫メニューを使って馬車も格納した。
「なっ⁉ 馬車まで……」
多少目立つ形にはなってしまったが、便利な能力はあまり無理に隠したくもない。
これからもしかするとここでずっと生きていかないといけないかもしれないのだ。
出来るだけ自由に快適に過ごしたい。
まぁ、他に誰にも使えないような能力は人前での使用はできるだけ避けたいところだが、異邦人ってことで既に注目を浴びているようだしな。いまさらだ。
「それではレスカ様、こちらへ」
その後、オレはその場で一度ミンティスと別れの挨拶をし、アリアとは別の侍女に案内されて来賓用のものと思われる豪華な部屋に通された。
「はぁ……目まぐるしい一日だったな……」
今日はそもそも平日だ。
仕事を終えて帰ってから『ベルジール戦記』にインしたのだ。
疲れてて当然だろう……。
そこから普通にいつも通り遊び、あとは寝るまでゆっくりしようかと思って街を散策していたら突然のキャンペーン告知。
そこから……おそらく
草原でのミンティスとの出会いから、馬車で数時間かけてこの街に移動。
門でのちょっとした騒ぎのあと、ようやく城に辿り着き、やっと一人でゆっくりできる部屋へと通された。
「く……本当はいろいろ考察したいところなんだが……」
せっかく一人の時間ができたのだ。
ゲーム内で蓄えたアイテムや装備、資産などがこの世界でどこまで使えるのか。
どれほどの希少性があり、どれほどの金銭的な価値があるのか。
小型のユニットを召喚して、それぞれの能力なども確認したい。
「したいのだが……もう、だめ……」
オレは着替えもせずに豪華なベッドに倒れ込むと、そのまま意識を手放したのだった。
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