第52話 バン

「面白い……できるものならやってみろ! お前の知っていることを洗いざらい話してもらうぞ!」


 こいつは危険だ。


 しかも、オレの知らない事を何か知っている様子。

 キャンペーンを進行したらこの世界に飛ばされて放置されたオレとは、ちょっと違うように思える。


 それに……。


「はっ!! 言ってくれるじゃねぇか! このドミノ様に勝つつもりかよ!」


 オレの知っているキマイラを所持しているプレイヤーとは別人だ。

 顔も見覚えがないし、名前もドミノとかいう名前ではなかった。


 いったいこいつは何者なんだ?


 ユニットは譲渡不可だし、キマイラは絶対にユニークユニットだったはずだ。

 なぜこいつが持っている?


「そのつもりだが何か問題でもあるか?」


「なっ!? なめやがって!! キマイラ! ブレスで焼き払え!!」


 音声指示だと?


 オレは罠かと警戒しつつも、周りを取り囲んでいるアダマンタイトナイトたちに、ジェスチャー操作で障壁を張るように指示をだした。


「ぎゃぁっ⁉ あちぃ!? ぶ、ブレス解除だ!!」


 こいつ……プレイヤースキル全然ないじゃないか……。

 なんでこんな奴がユニークユニットを所持しているんだ?


 対人戦において、声の聞こえる範囲で戦うことになった場合はジェスチャー操作で指示を出すのが基本だ。


 当たり前のことだが、音声で指示を出せば次に何をされるのか筒抜けだからな。


 だから対人戦で音声指示を出す場合は、ジェスチャー操作で複数指示を出しつつ、対戦相手に知られても問題ない指示のみを音声で出す。


 もしくはさっきオレが疑ったように罠をはったりする場合や、聞かれても防げないような攻撃を仕掛けるときだ。


 だがこいつは、音声でブレスと指示をだし、その通りブレスを放ってきた。

 しかも、裏で何か他の指示をだしているわけでもなく単発で……。


 こんな奴がトップクラスのプレイヤーとの戦いを勝ち抜いて、ユニークユニットを手に入れられるはずがない。


「おい……どうしてお前はユニークユニットのはずのキマイラを持っている? それは他のプレイヤーが所持していたはずだ」


「はぁ? お前なに言ってんだ? チートに決まってんだろ? だからこの世界に放り込まれたんじゃねぇか」


 は……? なんだ? どういう意味だ?


「チート? 異世界転生もののラノベでよくあるやつか?」


 オレはチートとか貰ってないぞ?

 まぁこのプレイヤーとしての能力が十分すぎるぐらいチートなんだが、あくまでもゲームで血のにじむような努力をして手に入れたものだ。


 この世界に来たから手に入れたというものではない。


「だからさっきから何言ってんだ? お前もゲームでチートしてアカウント削除バンされてこの世界に・・・・・放り込まれた・・・・・・んじゃねぇのかよ?」


 こいつ……違反行為をしてキマイラユニークユニットを手に入れたのか!?

 それにバンされてこの世界に放り込まれただと?


 オレとはまったく違う経緯を辿って、この世界にやってきたのか。


「なんだそれは? オレは普通にキャンペーンを進めていたら突然この世界に……」


「はっ!? まじかよ! じゃぁ魔神の加護すら持ってねぇの? チートで強化してねぇの?」


「当たり前だ。チートそんなことするものか!」


「まじか~なんだよ~俺にもいよいよ運が回ってきたじゃねぇか! 死ね!」


 まだ話している最中だというのに平気で攻撃してきた。

 まぁこの程度の攻撃で死にようがないが。


「やっぱり懲らしめてじっくり話を聞かせてもらう必要があるようだな」


 オレはジャスチャー操作でキューレにまずは邪魔なキマイラの排除を指示した。

 自我を持ち、自ら考えて行動できるキューレには細かい指示は不要だ。


 指示をだした次の瞬間には、キューレから漆黒の魔力が溢れ出し、残像を残してキマイラへと詰め寄っていた。


「はぁぁっ!! 貫け『槍の影スピアシャドー』」


 キューレが放ったのは上級戦技の『槍の影スピアシャドー』という技。

 槍に纏わりついた漆黒の魔力が無数の槍となってキマイラを貫いた。


 キマイラが苦痛に抗うように咆哮をあげる。


 ほう。無数の槍に全身貫かれても倒れないとは、さすがユニークユニットといったところか。


 しかし、ドミノの感想は違ったようだ。


「なっ!? 馬鹿な!? 戦技一発でHPが半分削られた!?」


 オレからすると、キューレの上級戦技に耐えられたことに逆に少し驚いたのだがな。


「こいつもやっぱりユニットなのか!?」


 ん? ユニークユニットの中でも戦乙女ワルキューレシリーズは一、二を争う人気で、皆が憧れるユニットの一つなのだが……こいつは知らなかったのか。


 まぁさっきまでは戦技をいっさい使わずに、こいつを抑え込むことだけに専念してもらっていたから、人だと思っても不思議ではないが……。


「お前、本当にプレイヤーか? なんで戦乙女ワルキューレシリーズを知らないんだ?」


「うるさいっ! オレはガチでゲームしてる奴をチートして笑いながらぶっ倒すのが好きなんだよ!! 別にゲームの細かい情報とかどうでもいい!」


 なんて奴だ……オレのようなゲーマーからすると絶対に許せないタイプの人間だな。


「お前、ほんとに性格ひん曲がってるな……」


「だから、うるせぇんだよ! くそっ! そんな強いユニットがあるの知っていればチートで手に入れてやったのに!!」


「本当にゲームの細かい情報知らないんだな。どうせ出回っているチートツール利用しただけのえせ・・チーターなんだろ」


 オレがそう言うと、図星だったようで顔をしかめるのが見えた。


「そもそもキューレのようなユニークユニットの中でも専用AIを持つタイプは、不正で手に入れる事は絶対に不可能だ」


「はっ……? 俺のツールはIDさえわかれば……」


「仮にコピーできたところで、専用サーバーと接続されないと使えないような作りになっているから動かないぞ」


「ぐっ……きったねぇな」


「…………」


 本当に呆れてものも言えないとはこのことか。

 汚いのはお前の行為だろ……。


「はぁっ!!」


 オレが呆れている間に、キューレがキマイラの残りのHPを削り切ったようだ。


「うわぁ!? キマイラが!?」


 オレがわざと話しかけてた・・・・・・・・・のにも気付かず、今ごろになって慌ててユニットを召喚しようとするがもう遅い。


 一瞬で間合いを詰めたキューレが刃のない石突の方で軽く小突くと、ドミノは意識を失って倒れたのだった。

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