第18話 挑発
異邦人であれば冒険者ランクがCからスタートできると喜んだのもつかの間。
キューレは結局特例の審査を受けなければいけないことがわかって少しがっかりだ。
まぁキューレのランクが低くても、オレが依頼を受ければいい話だからそこまで困る事はないのかもしれないが、せっかくだからキューレもあげておきたい。
「それでキューレの特例を認めて貰うためにはどうすればいいんだ?」
「そうだな。まず、過去の実績を証明できるものがあれば有利に働くがなにかないか? なければ純粋な今の強さを確かめて、それだけで判断させて貰う」
あいにくキューレにそのような実績はない。
こんなことならミンティスを助け出す時にキューレを使えば良かったか。
そうすれば実績として話す事もできたのに。
と言ったところで、いまさらどうしようもないな。
そもそもキューレを召喚するところを見せていれば、今ごろ別の問題になっていたかもしれない。
「いろいろあるが言いたくない。今の実力を確かめて判断してくれ」
ゲーム時代の話なら山ほどあるが、そんな話は言えるわけもない。
まぁガンズの今の言い方なら、別になくとも問題ないだろう。
そのような有利に働くなにかがなくても強さを証明できればいいだけの話なのだから。
「そうか。俺としては異邦人が連れている嬢ちゃんの逸話をちょっと聞いてみたかったが、言いたくないなら仕方ねぇな」
「そうか。だけど話をする気はないし、そもそもキューレの強さを見せれば何も問題ないと思っているからな」
「ほう……なかなかの自信、いや、信頼だな」
「当然だ」
キューレとは、それこそ数えきれないほどの戦場を共に駆け抜けてきたのだ。
信頼していないわけがない。
「そうかそうか! それは楽しみだ!」
ガンズはそう言うと、突然巨大なバトルアックスを取り出した。
禿頭で強面の巨漢であるガンズの得物が巨大なバトルアックスとか、似合いすぎだろ……。
しかし、今のバトルアックスはどこから取り出したのだ?
あとで聞いてみるか。
「さぁオレが直接確かめてやろう」
正直、予想していた展開で驚きはないのだが、このままただの美少女にしか見えない華奢なキューレが、サクッとガンズを倒してしまってもいいものだろうか?
ガンズは近衛騎士のセイグッドよりも強く感じるが、それでもキューレの相手ができるレベルには全然達していないように思える。
キューレにとっては、さっき絡んできた冒険者のゴメスもギルドマスターのガンズもきっと大差ない相手に見えているんじゃないだろうか……。
このまま戦わせていいのだろうかと迷っていたその時、ちょっとしたことを思いついた。
「なぁ、ガンズさん。ちょっと聞きたいのだが、あんたならこの召喚した
「あん? どういう意味だ? リビングアーマーは強敵だとは思うが、一対一なら負けねぇぞ?」
よし! 食いついてきた!
そして、こっそりこちらからは攻撃はしないように、アダマンタイトナイトに指示を出し、さらに煽っていく。
「そうか? じゃぁ、ちょっとサクッとこいつを倒してみてくれないか?」
「あん? 異邦人でもあまりギルマスをなめるなよ?」
「舐めているわけではない。キューレの相手をしようというのだろ? それならこいつを瞬殺できるぐらいの強さでないと相手にならないからな」
こうして煽っておけば、見るからに強そうなアダマンタイトナイトよりも、キューレが強いことをアピールできる。
あとは、ガンズとの戦いの後にキューレにもアダマンタイトナイトと戦わせてもいいかもしれない。
そうすれば、見た目普通の美少女に見えるキューレにガンズが負けたとしても、ギルドマスターとしてのメンツもある程度は保たれるだろう。
「ほう。お行儀のいい異邦人さまだと思ったが、レベルが高いのは伊達じゃねぇみたいだな。面白い! その挑発に乗っかってやろう!」
「そうこなくてはな。こちらはもう指示を出した。先攻は譲るから遠慮くなやってくれ」
アダマンタイトナイトは既に騎士剣を抜き、巨大な盾を握りしめて構えている。
「おう! いくぞ!!」
その瞬間、ガンズからかなりの圧が解放された。
やはりなかなかの強さのようだ。
ガンズは「ダンッ!!」と地面を踏み込みと、その巨漢からは想像のつかない速度で突っ込んできた。
「おらぁ!! アースバスター!!」
お? いきなり戦技か!!
思っている以上にやるじゃないか!
だけど……そんな低ランクの戦技ではアダマンタイトナイトの防御は破れないぞ?
「なっ!? 馬鹿な⁉ 正面から受け止めただと⁉ くっ!? しかも片手で⁉」
リビングアーマーが相手だったら、本当に瞬殺していたかもしれない。
それほどの攻撃だったが……相手が悪かったな。
「あ~ガンズさん、言い忘れてました。そいつ、普通のリビングアーマーより強化されていますので、もっと本気を出して貰っても大丈夫ですよ。まだ……実力を抑えてますよね?」
相手が悪いのはその通りだが、ガンズもガンズでまだ完全に本気ではないように見えた。
「がははは! レスカだったか! お前本当に面白れぇな! 異邦人ってのは召喚魔法だけかと思ってたんだがな!」
そう言って笑いながらガンズは圧をさらにあげた。
これは身体能力強化系の戦技だろうか。
さっきよりさらに二段階ぐらい強さが上がった気がする。
「おらぁ!! アースバスター!! アースブレイク!!」
おぉ~!? 今度は低ランクの戦技の後に、続けざまに中ランクの戦技を放ったぞ!
アダマンタイトナイトの防御を突破することは出来ないまでも、なかなかいい勝負になっている!
「これはなかなか凄いな……ん?」
ガンズの予想以上の奮戦にちょっと興奮していると、いつの間にかまわりに凄い数の冒険者が集まっている事に気付いた。
どうやらみんな、ガンズとアダマンタイトナイトとの激しい戦いに、息をするのも忘れて魅入っているようだ。
ここまで熱い戦いを繰り広げている所を見せつけられたのだから、もうガンズが最終的に負けたとしても、それを笑うようなやつはいないだろう。
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