第7話 初めてのお泊り①


「よかったぁ…まだ ルクシ君と

お別れじゃなくて ぐすっ…」


本当に今日がお別れだと覚悟したから、

安心感が半端ない…


ほっとして思わず涙が溢れてしまう

泣かないよう目頭を押さえる。


ルクシ「おねえちゃん 僕も嬉しい……

僕、おねえちゃんに『お別れだね』って

言われた時はすごく悲しかったんだからね」


ぷくっと頬を膨らませ、

ルクシ君は私をきゅっと抱きしめた。


うぅぅ…かっ可愛い……


じゃなくて!!

私の言葉がルクシ君に悲しい思いを

させてしまったんだね……


「ごめんね ごめんね ルクシ君

君の幸せだと思って…」


私は安心させるように彼の

頭を撫でて、背中をさすった。



ジンジャー「……………」

(俺は何を見せられているんだ

…オーロラさんは純粋に魔王様の事を

人間の子供だと思っているから良いとして…

………魔王様は…完全にアウトだな

おいコラ、シルク魔王! どさくさに紛れて

彼女を嗅ぐな!

そして顔を胸に押し付けるんじゃない

……オーロラさん可哀想に……)」



「………! 申し訳ございません

ジンジャーさんお見苦しい所を…」


いけないっ 大の大人がいつまでも

泣いていたら、情けないと思われる!

ダジュナール家の評価も…


そう思い慌ててルクシ君から離れた。


そして…私はふとある大切な事を

思い出した。


「………………」


あれっ……そう言えば今何時だっけ…


シラトス城だと、

一日中真っ暗だし、時計がないなら

今、何時か分からない……


そうだ!バックの中にある

懐中時計を確認すれば……


ルクシ「おねえちゃん?」


急いでバックに駆け寄り、

懐中時計を見ると……


なんと夜の7時を回っていた。


「………!! まずい もうこんな時間…

…ジンジャーさん…申し訳ございませんが

頼みがございます

ルクシ君だけシラトス城に1日預からせて

いただけないでしょうか」


ジンジャー「オーロラさん

何を当たり前の事を

今日は泊まる予定ですよね?勿論ですよ

ん?今『ルクシ君だけ』って言いました?」

(いや、何言ってるんだろう

魔王様が一旦戻ってきたんだし、

ダジュナールの屋敷も此処からじゃ遠すぎる

オーロラさんも今日は此処に泊まる予定じゃ…)


「良かった!ありがとうございます!

ええ、ルクシ君だけお願いします!!」


ルクシ「おっおねえちゃん?!

何言ってるの?今日はおねえちゃんも

此処に泊まるんだよ」


「ルクシ君…豪華な食事を頂いたのに

今度は泊まるなんて さすがにダメだよ…

此処は私みたいな使用人は

泊まって良い場所じゃない

身分をわきまえないと……

それに…お城の人達も大変なのに

さらに迷惑が掛かっちゃう

……だから私は……」


よいしょっと

大きなリュックサックを背負う


そう万が一、帰りが遅くなる場合、

私は準備をしたのだ


野宿する為の準備を!!


「シラトス城の付近で野宿するね!

明日の朝、お迎えに行くから

いい子にしているんだよ

ジンジャーさんお願い致します

では、一旦、失礼致します」


久しぶりの野宿かぁ楽しみだな

暖かい飲み物を片手に星を見るのも良いし

焚き火を暖をとりながら、料理するのも…


頭にやりたい候補を決めながら、

部屋をドアに手を掛けようとした瞬間


ガシッとルクシ君に止められた


ルクシ「おねえちゃん…行っちゃダメ!

外にでたら、魔獣に食べられちゃうよ」


「……まっ……魔獣?!」


……魔獣って大きさが数メートル越えの

あの化け物だよね

しかも人間の肉が好物って噂の…


ジンジャー「ええ…実は夜の時間帯になると

魔獣の活動時間となりまして、

シラトス城付近に彷徨いていまして…

なので野宿はおやめになって

今日は此処で泊まってください」


迷惑掛けたくないけど……

野宿して魔獣に食べられるのは

絶対嫌だ……


数十秒の沈黙の末、


私の出した答えは…


「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません

…私もよろしくお願い致します」


死にたくないので、

シラトス城に泊まる事にした。


……………………………………………………


………………………………


…………………




「……うわぁぁ…広いお部屋…

しかも雲が見える高い場所なんて初めて

良いんですか こんな豪華なお部屋

私達が使っても…」


ここはシラトス城の最上階

今日は遅い為、私とルクシ君は

このお部屋で泊まる事になった。


ジンジャー「ええ、勿論ですよ

…あるお方の命令でこの部屋を

使うようにと言われましたので

今日はこのお部屋で旅の疲れを取ってください」

(…シルク魔王一体何をお考えなのです

ご自身の部屋をオーロラさん使わせるとは

ご自身はどの部屋で過ごすんですか?

まさか……)


「何やら何までありがとうございます

このご恩は後日ちゃんとお返しします!

……もしかしたら、足りないかも知れませんが、それだけはご承知おき願います…」


ジンジャー「オーロラさん

お礼なんて気にしないで下さい

もう、充分頂いておりますので

さてと…ルクシ君は今日は別室で過ごしましょうか」


ジンジャーさんは

ニッコリとルクシ君に向けて笑う


ルクシ君の分まで用意してくれるなんて

なんて懐が広いの…


失礼かも知れないけど、

領主様達と大違いだ


ルクシ「えっ……僕1人でお部屋にいるの怖い

おねえちゃんと一緒じゃなきゃ やだ!」


ジンジャー「ルクシ君……いや困ったな…」

(やっぱり、一緒にいるつもりかぁぁ

待て待て待て!それはまずいって!!

ここあなたの部屋ですよ!

気が緩んで変身が解けたら……)


「ルクシ君……ジンジャーさん、

申し訳ございませんが、小さい子供を

1人にするのは心配なので…

ルクシ君も私と同じお部屋でよろしいでしょうか」


それに…こんな広い部屋、

私1人じゃとても勿体ないよね


ジンジャー「……分かりました

じゃあ、ルクシ君もこのお部屋で

後程、使用人が着替え等を持ってまいります

オーロラさん……少し耳を貸して下さい」


「はい なんでしょう ジンジャーさん?」


ジンジャー「…もし何かありましたら、

思いっきり叫んで下さいね」(小声)


「はっはい?分かりました?」



…………………………………………………




……………………………………………




……………………………………




「ふぁぁ…今日は歩きすぎてつかれちゃった

明日も早いし もう寝なくちゃ…

ルクシ君 もう寝るよ~」


ルクシ「うん 分かった おやすみなさい

おねえちゃん…」


私の隣でポスンと横になり、

すやすやと寝息を立てた。


「ふふっ可愛い寝顔…

おやすみなさい ルクシ君」


ふっとランプの灯りを消し、

私もベットに中に潜り込んだ


ベットはフカフカで

私の意識は一気に夢の世界へと誘った。




………………………………………………


………………………………………


………………………






ゴソ…ゴソ ゴソ……


ゴソ



夢を見た…


誰かが私の身体をべたべたと触っている夢


胸や太もも……

変な感触がして…気持ち悪い……



…何故この夢を見ているのか分からない

とっとにかく早く目を覚まさないと!!


でもなんだか、

感触がリアルなような……

熱があって、ねっとりした感じで…



レロッ…ジュゥ…(首筋を舐められる)


「……………っ!!」


……違う!!これは夢じゃない

今、起きてる事だ!!


なっ…何?何が起きているの?!

私達以外に誰かいるの?


心の中で慌てふためいていると…


ベロッ…チュク……チュ


続いて唇にもなめられたような感触がして…


「~~~~っ!!!」


唇に柔らかい感触が押さえつけられ

口内には何かが侵入してきて

吸われ息がしにくくなった。


「やあっ…やめて!!!」


怖くなって…バッと飛び上がり

意を決して目を開けた


真っ暗で姿は何も見えない


だけど…赤く爛々と光る2つ瞳が

私を見つめ、


ハァ ハァと荒い息遣いが聞こえてくるのが

分かった……


……まさか、目の前にいるのって

ジンジャーさんが言ってた魔獣?!


「………っい……」


触れられていたのは、

歯ごたえを確認する為…


舐められたのは味見をする為…


そして、今は まさに私を食べようと……


「いやぁぁあぁぁ 誰かぁぁ

魔獣が部屋にぃぃ !!!

助けてぇぇ!!!」


夜中でみんな寝ている所

非常に申し訳ないと思いつつも…


緊急事態なので……


ジンジャーさんの言う通り、

私は大声で叫んだ。




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