第4話 神官は疑う
素っ気ない一言を残し、足音一つ立てず二階へ行ってしまう勇者の背中を、フォルトは引きつった表情で見送った。
(い、いらない、だと……!?)
この家の、荒れた様。
生活力が全くないことが明白な勇者のために、人が食事を作ってやると言ったのに、いらない。
まさかの拒絶に、フォルトは手にしていた雑巾をぎちぎちと絞った。
(……待てよ? 王が、あいつのことを警戒してたように、あの怠惰勇者もこっちの出方を警戒しているのか?)
最初の短剣は、初手をみるための挨拶というわけか――そう考えたフォルトは、表情を引き締めた。
(怠惰な引きこもりだが、腕は鈍ってない……そう警告しているわけか。くそっ!)
してやられたと、フォルトは雑巾を床にたたきつける。
しかし、べちゃっとした音は、ただ気分を不快にさせただけ。
次期神殿長候補と名高い自分が、最高の癒やし手と言われる程の自分が、一体こんな
それも、他人に感謝するという事も知らない傲慢娘のために、だ。
(覚えてろよ……、怠惰引きこもりなうえに生活力無しの傲慢元勇者……!)
それでも、こんな荒れた家では食事の支度すらしたくなかったので、フォルトは掃除に精を出した。
――最後に、悔しさに歯ぎしりしつつ、雑巾片手に言われた部屋を開けたフォルトは、綺麗に整えられている室内を見て、目を丸くした。
全体の荒れようから、さぞや酷い部屋が待ち受けていると思いきや……フォルトに貸し与えられた部屋だけは別空間のように清潔で手入れが行き届いていた。
一体誰が、と考えるまでもない。
(そう言えば、あいつ、ちょっとだけ消えてたな)
なにをしているのかと思ったら、自分が寝泊まりするための部屋を準備してくれていたのか……。
感動しかけたフォルトだったが、夕食はいらないと言った時の勇者の顔を思い出し、慌てて首を左右に振った。
(思い出せ、俺! あの、ゴミを見るような目つきを! あの見下し目線を!)
俺はこんなことで誤魔化されないと、固く胸に誓う。
(だいたい、この部屋だけきれいなんて……あまりにも不自然だ! これはなにかの罠だ。罠に違いない! 幻術とかできれいに見せているだけとか!)
疑念を胸にそーっと寝台に触れてみるフォルトだったが、ふかふかした感触に「おぉっ!」と歓声を上げてしまい……ちょっとだけ、勇者への認識を改めた。
感謝も知らない傲慢娘から、感謝という概念は知っているだろう元勇者に。
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