エピローグ
聖北大学の器械体操部のジャージを着た。その中には高校三年の時に作った部活のTシャツを着た。今日は大学に入って初めての大会。
一通りの準備を済ませると、飛鳥は下階に降りてキッチンに入った。もう智弘がお弁当の準備を済ませてコーヒーを飲んでいる。
「おはよう母さん」
「おはよう飛鳥、よく眠れた?」
「うん、眠れた」
「コーヒー、今日は何飲む?」
「ドッピオ」
「ドッピオね」
飛鳥が朝食をとってコーヒーを飲んでいると、智弘が飛鳥に向かって声を掛ける。
「今日、和哉君は来るかしら」
「来るよ」
「あら、分かるの?」
「分かる」
そっかそっかと言いながら、智弘は嬉しそうだ。
「時間、大丈夫?」
「そろそろ行くよ」
飛鳥はコーヒーカップを流しに置き、エナメルの鞄を肩に掛ける。
「じゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
朝日に照らされた新緑の植木が朝露に濡れキラキラとしていた。飛鳥は聖北大学に向けて足を動かす。
「飛鳥」
懐かしい声が聞こえた。鼓動が早くなる。泣きそうになるのを堪えて振り返った。
「和哉」
最後に会ってから随分と痩せたその姿を見て、飛鳥はまた泣きそうになる。
「なんて顔、してるんだよ」
和哉はクスリと笑ってそう言った。飛鳥は涙を抑える事が出来なくなって、泣きながら親友に抱き着く。
「お前!肺炎なんて起こすなよ!」
「悪かったって」
「俺が今までどんな気持ちでいたか!」
「分かるよ、俺も同じ気持ちだった」
「「会いたかったよ」」
これは真波飛鳥の、たった一度しかない青春物語。
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