第19話 法について考えた Ⅲ

 どのような世界であろうとも、時代や場所に関係なく通用する「自然法」、そして人間が生まれながらにして持つ当然の権利である「自然権」という概念が存在する。これはたとえ魔法が存在する摩訶不思議なこの異世界でも変わらないだろう。しかしながら、一切の強制力がない自然状態において、影響が大きいのはおそらく異世界だろう。「bellum omnium contra omnes(万人の万人に対する闘争)」など、致命的だ。だからこそ、この世界ではどのような名称かは知らないが、社会契約説の提唱と国家の形成は、我々の世界よりも早いだろう。


「確かにこの世界の法の発展は、僕らの世界よりは著しいと思いますね」

「やはりか」

社方との戦闘…いや、ゲームの方が合っているだろうか、まぁともかく、それが私の白星になったので、街の中にあるベンチに座り、良い世間話に興じている。


「僕が面白いなと思ったのは、人間の心内の真偽でさえ、魔法によって明るみになるということですね」

「…というと?」

「例えば、「はい」か「いいえ」で答えられる疑問があったとします。その質問に対し、ある人が返答したとします。その返答が、その人の考えと一致するかどうかを判定することができる、そんな魔法があるってことです」

「要は、ポリグラフ検査の魔法版ということか?」


ポリグラフ検査というのは、俗にウソ発見と言われていれるが、実際は記憶検査の一種である。犯人しか知り得ない事件内容についての記憶を、生理反応の変化を基に判定する科学的鑑定法だ。


「確かにそうですね。この魔法は、実際にやったことではなく、思考に問いかけるのですから、記憶検査の方が正しいかもしれませんね。」

「それで、その信頼性は?」

「あらゆる人為的な要因によるものを除けば、魔法は絶対であることから、100%らしいですよ。まぁ、人が介入する以上、絶対とは言えないみたいですが」

「まぁ、そうだろうな」


これが、総合的に見て絶対では無いというのは、例えば「自分が犯罪を犯した」と洗脳された人間が「あなたは犯罪を犯しましたか?」と問われ、「はい」と返答した場合、その人間がたとえ途轍もない善人であったとしても、その魔法は「真である」という判定を下すだろう。また、その魔法を行使するのが人間である以上、その人間の匙加減だ。


「完全な証拠能力はありませんが、裁判でも使われているみたいですよ」

「複数人でか?」

「確か十人以上だった気がします。やはりそのくらいの人数が居ないと、虚偽の申告をする人間が存在する問題を解消できないのでしょう」

「どこまでいっても確実にはならないがな」

「…おや、日が沈みそうですね。公さんは確か、あの金髪の少女と一緒だったはずですが、大丈夫ですか?」

「今日は明日の旅路に向けての準備ということで、各自自由行動にしているから、問題はない」

「そもそもどういう関係で?」

「異世界における案内人みたいなところだ」

「そうですか」

「よかったら社方も一緒にどうだ?」

「嬉しい誘いですが、あとほんの数日しか滞在期間がないので。それに、まだ法学の本も読めていないので、残りの数日は本に囲まれる生活を送ります」

「そうか。なら拘束するのも忍びないか。日も落ちるし、ここらで解散するか」

「そうですね。では公さん。異世界観光、是非楽しんでください!」

「ああ。では、またあちらの世界で」


社方との時間は割と短かったような気がするが、まぁ面白い話も聞けたことだし、よしとするか。

 それにしても、吸血鬼かぁ。ファンタジーな存在であることを願うばかりだ。







※作者は法学の専門家ではありません。もしかしたら矛盾の発生や、趣旨や解釈の違いがあるかもしれません。その場合に関しては、ご指摘のほどよろしくお願いします。そして勉強不足である私の愚行を見逃してください…。

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