第14話 戦闘系魔法について考えた Ⅰ

 闘いを見せ物にするとは、正に剣闘士Gladiātorと言ったところか。剣闘士の起源については、はっきりとしたことはわかっていないが、イタリア半島中部の先住民族であるエトルリア人の生贄の儀式をローマが採用したという説が有力のようだ。紀元前260年代には、すでに剣闘士試合があったらしい。そして80年に、5万人を収容することができるコロッセウムがローマに建設された。しかし、380年にキリスト教がローマ帝国の国教になると、教会は剣闘士や訓練士など、闘技会にかかわる全ての者は洗礼を受ける資格がないと定めた。そして404年、闘技場で試合を止めるよう呼びかけた修道士テレマクスが観衆の投石を受けて死亡する事件が起き、西ローマ皇帝ホノリウスは闘技場を閉鎖させた。523年、イタリアを支配する東ゴート王テオドリックが闘技会を禁止する布告を出し、681年に公式に禁止され闘技会は消滅した。

 流血沙汰を見せ物にすることは、あまり好かない。この修練場での模擬戦は、果たして安全面に配慮しているのだろうか。


「どちらかが戦闘不能になる、もしくは降参を宣言するまで、試合を続行する、このようなルールでよろしいかしら?」

「戦闘不能の定義はなんでしょう?」

「そうですわねぇ…。立てなくなったらで良いかしら?」

「分かりました。それから、観客への被害は無いのですか?」


見れば、アリスさん以外にも少なからず人がいる。観客を巻き込むなどしたくは無い物だが…。


「ご安心くださいませ。この会場には防護壁が張られており、観客への衝撃はありませんわ」


ほう、便利な物だな。私の目には見えないが、まぁそういうものがあるのだろう。


「その防護壁とやらの耐久性は?」

「この私の魔法を喰らっても大丈夫ですわ。そう簡単に破れるものではありません」


一抹の不安はあるが…まぁ、私が気をつければ良いか。


「他に質問はありまして?」

「いえ、ありません。ありがとうございます。では始めましょう」


…さて、一体どのような魔法が見れるのか、楽しみだ。


「ハァア!」


おおー。シェーンハイトさんが雄叫びと共に炎を私の周りに出現させた!どうやったのだろうか?


「アハハ!見まして?私の実力!さて、どうなさいますか?降伏を宣言してはいかがかしら?」


でも炎の魔法は前に見たしなぁ…。窒息消化して次の魔法を見せて貰おう。


「はい。消化」

「な!なんで私の炎が!?」


窒息消化法というのは、アルコールランプの火を消す時にフタをする様に、酸素供給を断ち、火を消す方法である。因みに、天ぷら火災が起きた時は、濡れたタオルで覆ってやると良い。


「窒息消化です。ご存知ありませんか?」

「知ってますわよ!でも覆うものなどありませんでしたわよ!」


…まぁ、窒息消化の目的は、あくまで酸素の供給を断つことなので、その目的さえ達成されれば、方法は何でも良いのですが。


「くっ!ならこれはいかがかしら!」


おおー。電撃がこちらに向かってきた。どういう原理だろうか。テスラコイルと同じだろうか?…にしては速度が遅いような…?


「さぁ!くらいなさい!」


…てか、なんでシェーンハイトさんの方向へ向かわないのだろうか?よく分からないことが多いなぁ。まぁ取り敢えず…。


「はい、避雷針」

「な!?」


雷の発生原理は未だ解明されておらず、研究が続けられている。上空と地面の間に電位差が生じた場合の放電により起きるというのが有力である。そして落雷というのは、雲から地面に向う先駆放電(ステップトリーダー)と、地面から雷の下部に向かう先行放電(ストリーマ)が結合して起こる。私はよく「落ちる」という表現はあまりよろしく無いと思うのだが、まぁ良い。そして、避雷針の役割は、簡単に言えば地面と空中との電位差を緩和して、落雷の頻度を下げ、また、落雷の際には避雷針に雷を呼び込み、地面へと電流を逃がすことで建物への被害を防ぐというものだ。専門では無いため、詳しくは自分で調べて欲しい。なお、避雷針は必ずしも通用するわけではない。

 そして私が危惧していた問題は解消された。そもそもシェーンハイトさんが放ったものが電気では無い可能性があったのだ。明らかに物理的に逸脱しているのだ。だがまぁ避雷針が通用したということは、シェーンハイトさんの魔法は、めちゃくちゃ遅いステップトリーダーということだろうか。


「…私を…馬鹿にして…!」


いや、馬鹿にはしていませんが。むしろ魔法の実演をしてくれている以上、敬意の対象なのだが。


「もう手加減は致しませんわ。本気でいかせてもらいます!」


私の気持ちは、さながらマジックショーを観ているかのようだ。次はどんな魔法マジックを見せてくれるのだろうか。ワクワク。

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