第13話 てよだわ言葉とアリスさんのライバル?について考えた

 突如として現れた女生徒に、私は困惑している。アリスさんを知っているということは、アリスさんの学友か何かだろうか?


「あのー…どちら様でしょうか?」

「なっ!?この私を知らないですって!」

「ええ…まぁ…はい…すいません」


どうやらご存知無いらしい。ていうか、何故であろうか?言葉の節々に若干の「てよだわ言葉」を感じてしまうのは。彼女らの発する言語は、決して日本語では無い。にも関わらず、そう聞こえてしまうのは何故であろうか?

 元々日本でてよだわ言葉が流行したのは、明治時代である。日本の小説家、尾崎紅葉によれば「旧幕の頃青山に住める御家人の娘がつかひたる」らしい。旧幕とは明治維新以後、青山は地名、御家人は所謂武家の人間のことを指すのだが、中世と近世で解釈の差があるため、詳しくは違う。簡単に言えば、下層階級の女性が使っていた言葉なのである。当時は、その言葉使いは非難の対象であったが、結果的には中流以上の女性層に伝播、定着し、流行したのだ。

 そしてこの言葉はよく、文学作品において、海外の上級階級の女性の発言の翻訳に使われている。一体何故であろう?結論を言ってしまえば、てよだわ言葉を使うと、具合が良いのである。勿論海外にも敬語という概念は存在する。しかしながら、日本語の敬語表現ではカバー出来ない状況がある。そこで、この言葉を使ってみると、これまた便利なのである。そういう経緯があり、現在でも、お嬢様のようなキャラクターにはてよだわ言葉を当てるという風潮があるのだろう。

 以上の理由から、この目の前の女性が発する言語がたとえ日本語で無くても、日本人に刷り込まれた前提知識と表現が、てよだわ言葉を連想させるのだろう。


「私はルイーゼ・フォン・シェーンハイト。魔法学の天才ですわ!」


シェーンハイト…また聞いたことのない家名だ…。


「あのーそれで、シェーンハイトさん。私に何か御用でしょうか?」

「別に用なんてありませんわ。ただ、貴方の姿が見えたから、この学園を退学なさった落ちこぼれを嘲笑いに来ただけですわ」

「……………」

性格くそだなこいつ(直球)。


「それで、魔法の実技試験で最下位だった落ちこぼれさんが、この学園に何の用かしら?」

「ああ、その件に関しましては、私がアリスさんに、この学園の見学をお願いしたのですよ」

「…何ですの?貴方」

「申し遅れました。私はコウ・シュジン。しがない旅人です。失礼ですが、アリスさんが落ちこぼれであるという発言には、同意しかねます。学業に関しては優秀であったと伺っておりますが」


そろそろ口を挟んでおこうと思う。アリスさんを見る限り、あまり気にして無さそうだが、一応私が盾になろうと思う。


「あら。アリスさんのご友人かしら。貴方もこの学園のことを知らないようなので教えて差し上げますわ。この学園は魔法が全て。たとえ記述試験がよくとも、知識が豊富であろうとも、使いこなすことができなければ意味がなく、そんな人間は必要ないのですわ」


要するに、魔法主義ということだろうか。この世界では、そんなに魔法を使える者が偉いのか。


「ではシェーンハイトさんは優等生であると?」

「当然ですわ!実技試験、記述試験ともに一位、まさに学園の代表と言っても過言ではありませんわ!」


差別主義が無く、ほんの少しの理性が有れば、私も認めていたのだが…。


「あ!思い出しました!」


当然アリスさんが、ピカーンという効果音が出そうなことを言い出した。


「確かシェーンハイトさんって、記述試験でずっと私の下だった人ですよね?」


あ〜、そういうことか。要はあれか、シェーンハイトさんはアリスさんに嫉妬していたのか。こんな感じだろうか、「実技試験ができないくせに、記述試験で私より上なんて、許せない!」。はははははwwwww。笑いを堪えるのが大変だ。実にバカバカしい。恐らく図星だったのであろう。当の本人は、顔を赤くして、怒りを露わにしている。


「黙りなさい!この落ちこぼれ!貴方なんて、ずっと最下位だったでしょうに!」

「いや、私はあまり気にしていなかったからなぁ。確かに、不便だと思うことはありましたし、別に劣等感を抱いたこともありましたが、そんなことよりも勉強することに夢中でしたし」


これはもうあれだな。逆に相手が可哀想だ。一方通行的な感情は、時として残酷だ。というか…。


「そんなに貴方の魔法は優秀何ですか?でしたら是非見てみたいものですね」


正直、知的好奇心の方が勝っている。この世界の勉強にしに来た私からすれば、魔法という特産品を吟味せずにいられるわけがない。


「っ!…いいでしょう…。では修練場で行いましょう」

「修練場?」

「実技試験を行う場所です。そもそも実技試験は魔法の戦争力を図るような試験なので、それを訓練する場所があるんです。試験期間外は自由に使用できるんですよ」


アリスさんが解説してくれた。成る程。いよいよもって、この世界の教育制度が分からなくなってきた。戦闘力なんて必要なんだろうか?まぁ、それは後で考えるか。


「貴方と私で勝負しましょう。学園一位の実力を見せて差し上げますわ」


…要は、恥をかかせた腹いせに、私に八つ当たりするつもりでしょうか。はぁ、感情的な人間は本当に不愉快だな。くだらない、くだらないなぁ。

 ていうか、安全面は大丈夫なんだろうか?そこが心配だ。万が一にも、シェーンハイトさんを傷つけてしまうかもしれない。そうなると、色々問題が起きそうだなぁ。…はぁ、魚料理食べたい…。

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