第12話 学園・学校について考えた

 私の高校生活は、自分なりの青春を貫いたという自信がある。普通の人間には無い能力を持つ事を隠しながら過ごしたが、学友もいたし、それ故に、勉強の話ができる環境は、途轍も無く楽しかった。学校生活において、切磋琢磨できる者が存在するしないで、大きく変わる。アリスさんにはいたのだろうか?


 この世界の学園というものは、その殆どが一般公開されており、学生の邪魔にならなければ、自由に見学しても良いという。ならば是非図書館に行ってみたいものだ。


「此処が私の通っていた「ヘンミュン学園」です!」


…名前がどう考えても、アレな件。

 というか、勝手にモデルと決めつけていたドイツの教育制度とはかけ離れている。簡単に、現在のドイツの教育制度について触れる。と言っても、此処ではUniversität(総合大学)やFachhochschule(専門大学)に進学するために必要なAbitur(アビトゥーア)を取るコースにしか触れないが。多くの人達は、先ずGrundschule(基礎学校)という、いわば小学校に四年間通い、その後Gymnasium(ギムナジウム)という八年制の学校、いわば中高一貫制に通う。その後アビトゥーアを取ったものが大学に行く。これが最も理想的であろう。他にも、十三年生まで一貫のGesamtschule(統合制学校)に通う人もいる。

 ドイツでは、1812年にギムナジウムが大学の準備教育機関として定められ、その後19世紀には、ギムナジウムに関する制度が整備されていったらしい。

 他にも、イギリスではgrammar school(グラマースクール)という、日本で言う中学・高校にあたる中等教育学校、フランスではCollège(コレージュ)やlycée(リセ)と言った中等教育機関が存在しているなど、ヨーロッパの教育制度は日本とはかけ離れている。

 この異世界の時代背景を考えると、17世紀から18世紀、よくて19世紀前半、このくらいの年代であろう。だが、異世界の学校は、寧ろ現代日本の教育制度と似ている感じである。一体なぜであろうか?これはいくら考えても、あらゆる可能性が考えられるため、当たり前の結論を言おう。単に、教育制度の思い付きが、現代日本と同じだったのだろう。だが、教育制度には、未だ正解が存在しないため、相応わしいとは言い切れない。


「あちらが食堂です。殆どの生徒はあそこで昼食を取ります」


所謂、Mensaであろうか。


「今は授業中なんですかね?あまり喋り聲が聞こえませんが」

「えーと、そうですね。この時間帯だと五時間目くらいでしょうか」

「うーん、流石に教室に入るのは難しいか…。仕方ない、垣間見る程度に…」

「あ、終わったみたいですよ」

「…」


…既に鐘が鳴っていた。まぁ、次の授業を待てば…。


「この日はこれで授業は終わりみたいですね」


…我々は何しにきたのか、我々は何故か、我々はどこへ行くのか。


「すいません。無駄足でしたね…」

「いえいえ。また今度来れば良いだけです。それに、無駄ではありません。有益なことを知りましたし…」

「?」


生徒と先生。これを見れば、得られる情報は多い。まぁ最も、今は服装の情報しか無いが。要するに、この異世界の教育制度が現代日本のそれだと思う根拠が増えたのだ。ドイツでは、基本制服というものが存在しない。また、いずれの国の制服制度にも合致しないみたいだ。だがまぁ矛盾はあるが。

 日本では、1879年、旧宮内省の外局として設置された国立学校である学習院で詰襟の制服が採用された。これは、生徒間の差別を無くすためであり、これが日本の制服制度の始まりだったらしい。1885年、東京師範学校女子部で洋装が導入され、1886年、帝国大学で金ボタンのついた詰襟の制服が採用されるなど、制服の文化が発展したのは19世紀後半である。

 つまりこの異世界は、建物などの生活や科学進歩が19世紀前半でありながら、教育制度や服装など一部では19世紀後半という、摩訶不思議な世界というわけだ。


(この観光旅行、意外と面白いな…)


世界観の観察は、世界の成長に繋がる。完璧に近づいた世界にするための素材だ。


「長居は無用ですね。帰りますか」

「そうですね。晩御飯は何にしましょう?」

「うーむ、先程の通りにあった魚の看板の…」

「あら、そこに立っているのは、ヴィッセンシャフトの落ちこぼれではなくて?何しに戻ってきたのでしょう?」


…やっぱり来るんじゃなかった…。面倒なことになりそうだ。はぁ〜…たい焼き食いたい…と思ったけど、たい焼きは魚料理じゃなかったな。まぁ、街を眺める肴にはなるか。


 

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