第4話 魔法・魔術について考えた
アリストテレス曰く、「動物の内、人間のみがロゴス(理性)を持つ」らしい。この言葉は、私たち人間からしたら、それはそれは誉高き事であろうが、私はそうは思わない。勿論、人間が理性的動物の代表であることに間違いは無いだろう。だが、それならハイエナやらライオンやらの動物は、考え無しに行動しているのだろうか?もし彼らが飢えた状態なら、本能的にはなりふり構わず肉を求めて飛びつくだろう。だが、彼らはそうではない。勝てないと分かれば撤退するし、叢に身を潜め、獲物を待つ。少なくとも、理性が無ければそんなことはしないだろう。人間が理性的であるのは当たり前だが、唯一ではないと私が思うのは、そういう事からだ。
なぜこのような話をしたか。それは人間が理性的であると認識する為である。声がする方に行けば案内人がいるだろうと思ったのだが。
「おい、何だよ。何見てんだよ!」
いたのは、理性を失い、感情で動く愚かな動物であったのだ。人間である事に間違いではないのだが、私は此奴らを同類とは思いたくないものだ。
「何か言えよ!おい!」
さっきから喚き散らかす男性が三人。そしてそこで膝をついた女性が一人。まぁ、状況から察するに、喝上げだろう。いやはや、世界が変わっても、こんな奴がいるとは驚嘆だなぁ。
「聞いてんのか!」
因みに、さっきから何か言ってるが、四割くらいしか理解できてない。やはりリスニングとスピーキングを練習するべきだと思った。取り敢えず、その女性から奪ったであろう物を指差し、それは彼女のものであろう、とジェスチャーしてみる。三言くらい言葉を添えて。
「巫山戯てんじゃねーぞ、こら!」
そう言って、彼は手を突き出し、炎を飛ばしてきた。ほう、近くで魔法っぽい魔法を見るのは初めてだ。
魔法、此処では魔術と言った方がいいかもしれないが、考察していこう。と言っても、魔術らしき物、例えば呪術や邪術、占星術も入るかもしれない、それらが世界の何処にでも存在する。今回は西洋史を見ていきたいと思う。
Magicの語源となったマゲイア(μαγεία)、更にその語源たるマゴス(μάγος)について見ていこう。マゴスとはペルシアのゾロアスター教の司祭階級であり、古代ギリシアの歴史家であるヘロドトスによれば、マゴスの複数形であるマゴイ(μάγοι)は、古代イランの王国であるメディア王国の支族名であったらしい。支族名の説明は難しいので、家名とでも思ってくれ。そのマゴイは後に神託や占星術を司る知者と見なされるようになり、その評判からマゲイアという言葉が誕生した。マゲイアは賢者たるマゴイの神学としての意味でも使われたが、魔術としても用いられた。この時代には他にも、ゴエーテイア(γοητεία)やファルマケイア(φαρμακεία)があるが、此処では扱わない。
中世では魔術と錬金術は同じであると認識されていた。なんなら科学も。そもそも錬金術というのは、卑金属から貴金属を精錬する試みである。深く言えば、物質の存在・変化・創造を追究するのが目的であると言える。そして錬金術は立派な学問であり、経験論の祖であるフランシス・ベーコンはスコラ哲学と共に錬金術も学んでいる。ですが、中世では錬金術は正しく認識されておらず、魔術と混同されていた。だが、この頃の魔術は数学や天文学、医学などあらゆる科学と結びつくものであったらしい。
その後科学が発達すると、まだ解明されてない学知を魔術と言った。このことが、魔術を神秘的なものだと想像する一端となったのだろう。
今では、魔法や魔術はファンタジー作品の中に存在する架空の力となっている。作品によって、呪文やら魔法陣やら、あるいは降霊術などいろいろな概念が混在している。今私の目の前で行われている火の玉ストレート(物理)も、多分それだろう。
因みに、彼がどのように炎を放ったか、やはり観測できなかった。どうやら私には魔法の秘密を暴く権利は無いようだ。まぁ、その過程が魔法であれ科学であれ、今私の目の前にあるのは、酸素が無ければ消えてしまう火だ。結果が物理現象である以上、私の能力の範疇である。干渉し、操作する権利は私にある。
「な…なんで消えた!?」
驚嘆しているな。まぁ無理も無いだろう、現実的でないからな。さて、さっさと此奴らを何処かに飛ばそう。そういえばこの街の中心に噴水があったな。そこでいいか。はい、さよなら〜。
さて、目の前に邪魔がいなくなったし、女性を保護するか。見たところ怪我は無いし、単に精神的に衰弱、いや肉体的にも衰えているな。
「大丈夫ですか?これ貴方の荷物ですよね?」
文法書を読みながら何とか言ってみた。目の前の女性、いや外見からして女子と言うべきか。彼女は驚いた様子を見せたが、直ぐに気を取り戻した。
「…た、助けていただき、ありがとうございます。はい、私の鞄です」
さて、どうしようか。彼女を保護した以上、家まで送らなければいけないが、面倒だ。まぁいいか。代わりに美味しい飲食店でも教えてもらおう。
「此処は人気が有りません。女性の一人歩きは危険です。貴方の家まで送りましょう」
すると彼女は一考した後、重く口を開いた。
「…実は、家…無いんです。宿にも、まだ行ってなくて…」
これは参った。訳有りっていう奴だ。
「取り敢えず、何か食べませんか?見たところ、食事もあまり摂られていないご様子。私を信用しきれないのは分かります。ですが、私はただ、美味しい食事処を知りたいだけなのです」
彼女は少し破顔を見せた。
「そうだったのですか。分かりました。良い店を知っています。其処へ行きましょう」
私の計画は成功したようだ。良い案内人を見つけた。だが、奢らせるのはやめた方が良いな。二人分の食事を払う程度の資本はある。保護という言葉の体裁を守らねば。
因みに私が彼女を助けたのは、彼女の自由が奪われていたからである。どんなところであろうと、自然法は存在するのだ。
…断じて奢らせようという気は無い!無かったからな!
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