第10話 義務教育について考えた

 さて、私とアリスさんは昼食を終え、少し休憩しているのだが、この後どうしようか?目的無しにこの街を探索しても良いのだが、やはりこの世界特有の何かにぶち当たりたいものだ。はぁ…まるで大学の図書館で未知の本を探すようだ。…ん?大学…学校…あ!そういえば!


「そういえばアリスさんって学校は…」

「あー…家を追い出された時に退学させられました…。なので気にしなくて大丈夫です!」

「…学修に未練は無いですか?」

「…無い…と言えば嘘になります。ですが、コウさんの話を聞く方が学びになりそうなので!」

「学修意欲が高いのは良いことです」

「ありがとうございます!」

「…そのことでアリスさんに質問なのですが、この辺り世界の学問について教えてくれませんか?

「?、別に構いませんよ」

「では初めに、この国には義務教育というものはありますか?」


 先ずは義務教育について、軽く話そうと思う。どの国でも、多くの偉人が教育制度の改善を望んだらしい。例としてあげるなら、ルターやフィッシャー、カントなどだ。挙げてもきりがない。だが、此方の世界で義務教育が始まったのは、意外と最近である。

 イギリスでは1833年の補助金制度や、1870年のフォスター法などの過程を経て、1893年の小学校教育(就学)法により、最低年齢は11歳、そして13歳を過ぎた者には強制となった。そして、1918年のフィッシャー法で14歳義務化された。

 フランスでは1882年の初等教育義務法や、1959年の義務教育延長法で、子供の義務とされた。そして1989年の新教育基本法(ジョスパン法)の第1条で、「教育への権利」が国民に保障された。

 そして今私がいる異世界のこの国によく似たドイツでは1848年に起きた三月革命への対応として制定されたプロイセン憲法により、学問の自由、教育を受ける権利、無償化を保障した。

 他の国についても語りたいが、長くなってしまうのでやめる。此れから私が言いたいことは、この国のモデルであろうヨーロッパの国々の義務教育化は19世紀以降が最もである。しかし、この異世界を見る限り、そこまで時代が進んでいるとは思えない。だから気になったのだ。


「うーん。確か、法には明記されてたと思うんですが、貧しい人達には厳しいようで、完全には達成できていなかった気がします」

「そうですか…」


…まぁ、時代的に、義務教育が進められているだけで良い方か…いや本当か?

 

「因みに義務教育ではどのような内容をされたのですか?やはり実用的なことですか?その…宗教や神学的なものではなく…」


 というのも、近代ヨーロッパは実学主義をとっていたので、流石にこちらでもそうであろうと思った。


「そうですねえ…初等教育では四則演算や単純な国語、それから自然現象についてですかね。中等教育では、初等教育の応用と魔法の基礎が始まります」

「魔法ですか?」

「はい。この国では主に魔法について学ぶことを重要視しています。初等教育や中等教育で計算や会話、読書、そして現象の理解と魔法の基礎を学び、高等教育で、専門的に魔法を学びます。勿論、大学でも、数学や語学、物理学や化学、生物学、宗教学などの学問も取り扱いますが、魔法学に比べれば、規模は小さいですね」


聞いた感じ、学校制度は日本とほぼ同じかな。


「やはり、魔法を学んだ方が将来有利だからですかね?」

「その面は強いでしょうね。ですが他にも、生活において便利ということがあります」


「現代日本で情報学が人気になった」みたいなものか。うーん、数学が縮小してるのは悲しいなぁ。


「そうですか。では、魔法を使えない者は他の学問に進むということでしょうか?」

「そのパターンが多いでしょうね。まぁ、魔法が全く使えないという人をあまり見たこと無いし、基本努力すれば魔法のスキルは上がりますから、普通の人は考えもしないでしょうね」

「残酷な聞き方をしますが、アリスさんは努力しなかったんですか?」


するとアリスさんは、少し顔を顰めた。タブーだったのだろうか?


「…魔法学より、それ以外の学問の方が好きだったんです…。勿論、魔法学の知識は身につけました。実践魔法も全くしなかったというわけではありません。ですが、結局私は魔法を発動できませんでした…」

「そうですか。別に良いと思いますけどね、魔法なんて発動出来なくても」

「…私もそう思ってはいるのですが、やはり劣等感を感じてしまいます…」

「アリスさん。貴方は素晴らしい人です。学びを怠ることなく、この世界では、あまり発展していない科学をも学ぶ姿勢は、見習うべき姿だと、私は思います。だから自信を持ってください!」

「は、はい!」


アリスさんはこの世界では貴重な存在かもしれないが、私にとっては最高の人材だ。実践魔法とやらしかやらず、真理を探究しない愚か者とは違う。アリスさんは生まれる世界を間違えたみたいだ。可哀想に。


「あのー、相談なんですが、学問に興味があるなら、学園を見学されては?」

「?、開いてるんですか?」

「ええ。高等学校と大学校は、常に一般の人の見学が可能です。私の通っていた高校なら、案内できますよ」

「なら行きたいですね。どのように指導しているのか気になりますし」

「分かりました。ではいきましょう!」

「今からですか!?」

「何を仰っているのですか!善は急げですよ!」


 「フットワーク軽い」略して「フッ軽」とはこのことを言うのだろうか…。


 はぁ、食べようと思っていたシュトーレンらしきものが遠のいていく〜。




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