第17話 法について考えた I
シェーンハイトさんとの対決から少しばかり、そろそろこの街を出ようかなぁ。ここに長く留まっていては、異世界旅行の意味がないし。他の地域の風土や伝統、その他色々も見たいし。
「コウさん。おはようございます。今日は良い天気ですね」
「アリスさん。おはようございます。そうですねぇ、良すぎるような気もしますが…」
今日の天気は晴れを通り越して快晴である。私としてはもう少し雲があっても良いような気がする。因みに、快晴・晴れ・曇りの定義は、空全体を覆う雲の割合によって決まっている。私が望むのは晴れくらいだ。まぁそんな日は紫外線が強くなるので、それはそれで嫌なのだが、私には便利な能力があるため、問題は無い。
「ところでアリスさん。そろそろこの国を発とうと思うのですが、次の場所として良いところはありませんか?」
「う〜ん…。どのような場所がご所望なのでしょう?」
「そうですねぇ。何か、不可思議な伝説や伝承がある場所とかですかね」
「あ!それでしたら、此処から南東に行ってみては如何でしょう?」
「何かあるのですか?」
この世界は我々の世界と同じような地理関係で、今私がいるのは、地球で言うドイツの位置である。それを踏まえると、此処から南東、つまりチェコやスロバキア、ハンガリーやオーストリア辺りだろうか。
「何でも最近「吸血鬼騒ぎ」があったそうですよ」
「吸血鬼…ですか?」
というと地球のルーマニア南部辺りだろうか。まぁ、面白そうではあるか。
「最近家畜の血が無くなっていたり、行方不明者がいるらしいです」
「なるほど。決めました。そこにしましょう」
「わかりました!それでいつ頃発つのでしょう?」
「明日にしましょう。今日はその旅路への準備に使います」
「ということは、今日は各自での行動ですか?」
「…ええ、まぁ、そうですね。そうしますか」
「わかりました。では、また後で」
…行ってしまった。元気なことで。さて、私も用を済ませるとしましょう。
それにしても、この街は広い、人気の無いところに出るまでに結構時間を使った。ここなら、多少戦っても、被害は出ないだろう。森の生物には申し訳ないが。
「いるのでしょう?私をつけてきている何処かの誰かさん?」
…ほら、いた。
「流石公さん。僕に気づくなんて、やはり異世界に来ても腑抜けてはいないのですね」
「…なんだ社方か。驚かさないでくれよ。不審者だったらどうしようかと…」
「お久しぶりです。いや〜、話しかけるタイミングが分からなくて…」
「社方もハーンさんにお願いして?」
「はい。二週間ですが、異世界の法律を学びに」
「なるほどねぇ。なら、私に会おうとしたのは何故だい?」
「ハーンさんから聞いていたというのもありますが、せっかく異世界の法律を使えるようになったんです。貴方に勝負を挑もうかと思いまして」
「…やっぱりかぁ…」
「じゃあやりますか。ルールは変わらず、「公さんが僕に攻撃を当てられたら、公さんの勝ち。十分経過したら、僕の勝ち。」でいきましょう」
「なら一瞬で終わらせてあげよう」
私の能力は重力も操ることができる。地球にいた頃はこれで決着だったんだが…。
「…重力操作による自由の侵害は、此方の世界では法に触れますよ。僕が何も対策無しに再戦を挑むと思いますか?」
…そう。こいつの能力は「法が定める内容に違反する行為を停止させ、その行いに対する罰を与える能力」。簡単に言えば、殺人や強盗など、犯罪になる行為を止めて、その行為を行った者に、それ相応の罰が下るというもの。また、既に行われた行為に関しても、元に戻すことができる。極端な話、人が殺されても、それを無かったこと、つまり生き返らすことができるとかいう、正にチート能力だ。
「う〜ん。やはり公さんには「罰」が下りませんか」
私の能力によって、私に対する彼の能力の干渉をさせないようにしている。だから「罰」を喰らうことはないのだが、「行為を停止させる能力」は私でも無効化できない。複雑なのが、停止させる対象は、「私」ではなく「行為」であり、罰を与える対象は「私」であるという点。私に対する干渉はどうにかなっても、私の行為に対する干渉はどうにもできない。故に、社方に直接攻撃を加えることは私でも不可能なのだ。
「こちらの世界には、重力魔法というのがあるそうで、それに関する判例もありましたよ。凄いですね、この世界。法学の発展が早い気がします」
私を悩ませるのはそこだ。あちらでは不可罰となるものが、こちらの世界ではそうはいかないということだ。「不能犯」という言葉を知っているだろうか。不能犯というのは刑法学上の概念の一つで、「行為者が犯罪の実現を意図して実行に着手したが、その行為からは結果の発生は到底不可能な場合」のことである。ここで重要なのが超能力の有無である。私や社方みたいな能力者にとっては「超能力で人を殺すことができる」ことは分かっていることだが、常識はそうではない。超能力で人が死ぬことが証明されていないからである。当たり前だろう。要するに、社方の能力は、超能力による行為には反応しないのだ。まぁ彼曰く、明確な殺意や犯行意識が有れば、例え不能犯になり得るようなものでも反応するらしい。そこの線引きがよく分からない。
ところが、彼は異世界の法律を適用できるようになった。此方の世界には勿論のこと、魔法による犯罪がある。そしてそれを禁止するための法もある。つまり、社方の能力は、超能力者や魔法使いなどの超常現象を使用して法を犯す者にも対応できるという、ある種の進化をした。それによって、私の能力の大半が通用しなくなった。
「さぁ公さん!僕の能力の盲点をつけますか!!!」
…さて困った。どないしようか。
※作者は法学の専門家ではありません。もしかしたら矛盾の発生や、趣旨や解釈の違いがあるかもしれません。その場合に関しては、ご指摘のほどよろしくお願いします。そして勉強不足である私の愚行を見逃してください…。
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