第18話 法について考えた Ⅱ
そもそも法というのは、紀元前3000年頃にまで及ぶ古代エジプトにはすでに似たようなものが存在しており、「法」「真理」「正義」を司るとされる、古代エジプト神話の女神マアトの概念に基づいていたらしい。そして紀元前2100年頃、現存する世界最古の法典であるとされる「ウル・ナンム法典」が、メソポタミア文明のウル第三王朝・初代王ウル・ナンムによって発布された。この法は、殺人や窃盗などの刑罰が規定されており、損害賠償に重点を置いていた。そしてその約300年後、バビロニアを統治したハンムラビ王によって「ハンムラビ法典」が発布された。知ってのとおり同害報復であり、罪刑法定主義の起源とされる。
ヨーロッパの法制史で先ず挙げられるのは、恐らくローマ法だろう。しかし、紀元前450年頃に古代ローマにおいて初めて定められた成文法である「十二表法」から、東ローマ皇帝ユスティニアヌス1世が編纂させた『勅法彙纂』、『学説彙纂』、『法学提要』、および534年以降に出された新勅法の総称である『ローマ法大全』までと、長い歴史を持っており、説明するのが面倒なので、興味があれば自分で調べてほしい。
現代ヨーロッパであり、この異世界の年代と類似しているかもしれない頃までとぶと、1804年、フランスの私法の一般法を定めた法典である『フランス民法典』が公布された。ナポレオン・ボナパルトが制定に深く関わっていることから『ナポレオン法典』と呼ばれ、近代市民社会の法の規範となった。
それから判るように、この世界にも既に、法の下の平等、もっと言えば近代私法の三大原則も存在する。私の主観ではあるが、この世界の法学は、私がいた世界よりも遥かに発展しているみたいだ。魔法によって、経済的格差だけで無く身体的格差が、一般人とアスリートみたいな差では無く、それよりも遥かに広い差が生まれてしまったことが原因だろう。この議論に関しては社方の範疇、私のはあくまで推測に過ぎないか。
「…公さん。確かに僕は貴方に害を成すことは出来ないかもしれない。しかし、能力者による一方通行の暴行を、何も出来ず認めるわけにはいかないのですよ!そして私の勝利は、自身の安全を確保すること。それはつまり、弱者の安全を保障することです!」
「別に能力者全員が犯罪者予備軍では無いが、確かに能力者、この世界で言えば魔法による犯罪は無くすべきであるし、私もそれを願っている」
「では…!」
「だけどそれは、私が社方に負ける理由にはならないな。今社方が「どこに」いるか分かるか?」
「…変わっていませんが。僕が何処にいようが、それは僕の自由でしょう」
「なら社方は、新幹線に乗っている途中、良い景色が見えたから、壁などをすり抜けてその場所に留まるのか?」
「できるわけないでしょう。そんなこと」
「そうだね。新幹線に乗っている人は、側から見れば同じ速度で移動しているからね。ところで地球が太陽の周りを回る速度はどれくらいか知ってるか?」
「確か地球の公転速度は秒速約29.79kmだったと思いますが」
「つまり、単純に考えれば、私たちは地球と共に1秒で30kmくらい移動してるわけだ」
「だからなんだと言うんです?」
「この星が地球であるかどうかはわからないが、測ってみたところ、ほぼ同じと分かっているのだ。じゃあ、慣性力も感じさせず、その大地を踏みしめる感触も違和感を感じさせず、肌に感じる風も、眼に映る景色の光も、周りの環境全てを再現して、君の運動を地球から外したら、今君は何処にいるんだろうね?」
「…なるほど。つまり僕が感じているこの環境は偽物で、私は今宇宙空間にいるということですか」
「正解。何故こんなまわりくどいやり方をとったか分かるか?」
「絶対に法に触れないやり方を取ろうとすれば、このやり方ということですか?」
ぶっちゃけ言えば半信半疑だった。もし仮に「視界の自由」とか言われたらどうしようかと思ったが、そんなことは無かったらしい。私は法学の専門家ではないから、判例が無いだけで、本当は上記されている可能性があったのだが、どうやら大丈夫らしい。
「さて、私が今能力を解けば、酸素も無ければ、熱線で焼けるし、さらには真空状態で身体がどうなることか、想像もしたくない。降参した方が良いと思うが?」
「…はぁ。今回は勝てると思ったんだけどなぁ。降参です。僕はまだ死にたくありません」
私と社方の勝負は、私の勝利で終わった。社方が持つ能力の範疇に触れず、彼を死に追いやる方法が他にもあったかもしれないが、どう頑張っても基本的人権が保障する内容に触れそうだった。だからこんなまわりくどいやり方にしたのだ。因みに地球、というかこの星を軌道から外す方法もあるが、そんなことをすればどうなるか分かったもんじゃ無いし、それの後処理も面倒だからやめたのだ。
さて、まだ日が高い。社方とこの世界の情報を共有するか。この世界の法に関して、まだ気になるところがあるし。
※作者は法学の専門家ではありません。もしかしたら矛盾の発生や、趣旨や解釈の違いがあるかもしれません。また、物理学の専門でもないので、間違った結果を記述している場合もあります。その場合に関しては、ご指摘のほどよろしくお願いします。そして勉強不足である私の愚行を見逃してください…。
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