第十九話 狐の異変

 時は数日後――昼休み。 

 場所は学校屋上。


 現在。

 蓮は一人、盛大なため息を吐いていた。

 その理由は簡単だ。


「寝狐のやつ、大丈夫なのかな? あれからずっと体調悪いみたいだし……もうしばらく、まともに顔を合わせてないよな」


 こうなってくると、ただの頑張り過ぎが原因だとは思えない。

 思い当たる節は、あるにはある。


(寝狐は神様だ。ひょっとして、人間の世界の空気が合わないんじゃないか?)


 寝狐の性格はすこぶるいい。

 そして、そんな彼女は「恩返し」がどうのと言っていた。


「人間の世界に来たら、体調が悪化することを知っていたのに……俺への恩返しのためだけに、それを秘密にして近くに居てくれたのか?」


 ありえる。

 そして、もしそうならたまったもんじゃない。


 いい迷惑だ。


 蓮は自堕落クソ人間だと自覚している。

 しかし、人に無理して恩返ししてもらおうとは、全く思えない。


(寝狐は俺に、生き方を変えるきっかけをくれた――もう恩返しはそれだけで十分だ)


 今日帰ったら伝えよう……お礼と共に。

 寝狐はもう、天界に帰るべきだと。


 などなど。

 蓮がそんな事を考えていたその時。


「なーに一人で喋ってるのよ?」


 と、聞こえてくるのはヒメの声。

 振り返れば、彼女がジュースを片手に歩いて来るのだった。

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