第三話 お狐様襲来②

 時はあれから数時間後。

 場所は変わらず蓮の家。


「で、だ。さっきは流されてすっかり掃除を任せたわけだが――」


「蓮さん。まずは言う事があるはずです。よりよい人間になるには、とても欠かせない物ですよ?」


 と、蓮の前にちょこりと座り、狐尻尾をふりふりしている寝狐。

 蓮はそんな彼女へと言う。


「……掃除してくれて、ありがとうございました」


「はい! どういたしましてです、蓮さん」


「で、さっきの話の続きだが――あんたは、えっと」


「寝狐とお呼びください。蓮さんになら、そう呼んでもらって結構です」


 と、狐尻尾を嬉しそうにふりふりしている寝狐。

 蓮は彼女が本当は何者なのか、問い詰めようとしていたのだ。

 だが、それを見ているとどうにも調子が狂う。


 なんだか、蓮だけ無駄に警戒しているようで、アホみたいに思えてくるのだ。

 と、蓮はそんな事を考えたのち、ため息交じりに寝狐へと言う。


「まぁいいや……寝狐が本物の神様かは置いておくとして、部屋の掃除は助かった。なんかお礼するから、それで帰ってよ」


「いえ、帰りませんよ」


「……なんで?」


「私は蓮さんに、より良い生活を――」


「いや、別に俺はこのままでいいよ。自堕落な生活してるのはわかってるけど、困ってないし」


「私が困るんですよ!」


 と、狐尻尾をおっ立てながら、言ってくる寝狐。

 彼女は真剣そうな様子で、蓮へと言葉を続けてくる。


「いいですか、蓮さん。私の未来視の結果――あなたは将来、ブラック企業に入社します」


「は、はぁ」


「そして、そこで使い潰され、最終的にスケープゴートよろしく切り捨てられます」


「う、うん……」


「さらにさらに! あなたは誰に見送られることなく、一人寂しく橋の下の段ボールハウスで人生を終わらせることになります!」


 と、そこまで言い切る寝狐。

 彼女は立ち上がり、蓮の方を指さしながら言ってくる。


「蓮さんはそれでもいいんですか!?」


「まぁ、別にいいや」


「そうでしょう! そんな人生嫌に――って、いいんですか!?」


「一人寂しくって言うなら、誰にも迷惑かけてないんだろ?」


「ま、まぁそれはそうですけど……」


「未来視なんかなくても、このままじゃそうなるんじゃないかなって……うっすら思ってたし。俺は納得したうえで自堕落やってるんだから、後悔なんてしないよ」


 将来より今だ。

 今が楽しければ問題ない。


 それこそが、蓮の方針なのだ。

 なので……と、蓮は続けて寝狐へと言う。


「積んでるゲームをやらないといけないし、本当にそろそろ帰ってよ。狐なら、油揚げでも渡せばいいのかな――高いやつ」


「いえ、油揚げは……それにしても、ゲームとは?」


 と、ひょこりと首をかしげてくる寝狐。

 蓮はそんな彼女へと言うのだった。

 

「将来を捨てでも楽しみたいもの……俺の人生、かな」

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