第十七話 蓮は帰宅してみる

 時はあれから数時間後。

 蓮はようやく学校から、家に向けて歩いて居た。

 無論。


(ちゃんと、帰りに商店街によってお土産買わないとな)


 今日の学校は、過去最高疲れた。

 数学の時間以降、定期的に話しかけてくるクラスメイト。

 終いにはヒメとの一件。


(でもまぁ、少し楽しかった……かな)


 これならば、学校も悪くはない。

 もちろん、毎日登校するとなると、まだまだ怠さが勝るが。

 まぁなんにせよ。


(日常に変化が起きたのは、確実に寝狐のおかげだ。我ながらくそチョロいけど、しっかりお礼をしよう)


 お土産は何がいいか。

 と、蓮はそんな事を考えながら歩みを進めるのだった。



      ●●●



 そうして時は数十分後。

 場所は蓮の自宅前。


(寝狐は狐の神様だし、高級油揚げ買ってきてみたけど、喜んでくれるかな?)


 と、蓮はそんな事を考えながら、玄関の扉を開く。

 そして、そこから中へ足を踏み入れながら言う。


「ただい――」


 ドタドタ。

 バタバタバタ。

 ドタバタドタバタ。


 と、蓮の言葉を断ち切るように聞こえてくる物音。

 いったい何事か。


(そういえば寝狐の奴、僕が学校に行っている間に掃除するって言ってたよな?)


 きっと寝狐、掃除してくれているに違いない。

 けれど、ここでふと思う。


(でも掃除って、そんなに時間かかるのか?)


 いや、蓮の家は綺麗な方ではない。

 きっと隅々までやれば、これくらいかかるのかもしれない。

 なんにせよ、そこまでやってくれた寝狐に感謝だ。


(もしまだ掃除が終わってないなら……手伝ってみるか)


 などなど。

 蓮は考えたのち、リビングへと歩いて行く。

 すると見えて来たのは。


 床に散乱するゴミ。

 投げっぱなしになったクッション。


(……あれ? 俺の家、こんなに汚かったっけ?)


 クッションはともかく、お菓子は本当に記憶にない。

 しかも、よく見れば机の上には朝使った食器がそのまま――カピカピになっている。

 と、そこまで考えたその時。


「お、おかえりなさい蓮さん!」


 と、聞こえてくる寝狐の声。

 振り返れば、そこには寝狐が居た。

 蓮はそんな彼女へと言う。


「あ、あぁ……ただいま。えっと、ひょっとして体調悪かった?」


「な、なんでですか?」


「いやほら、食器もそのままだし……部屋の掃除もしてないし。ひょっとして寝狐、体調悪くて寝てたのかなって」


「うぐっ……」


 と、見るからに申し訳なさそうな表情をしてくる寝狐。

 きっと図星に違いない。


「掃除は俺がやってみるよ」


「れ、蓮さん?」


 と、驚いた様子の寝狐。

 蓮はそんな彼女へと言う。


「お前の言う通りやったらさ、今日はいつもと違う一日だったんだ。自分を変えるのは面倒だと思ったけど……そんなに悪くないかもしれない」


「…………」


「だからさ、せっかくだし掃除も自分でやってみる。寝狐は部屋で寝てろよ――昨日使わせた客室、寝狐が自由に使っていいからさ」


「れ、蓮さん……そう、ですよね。変わるのは……悪い事じゃ、ない」


「寝狐?」


「あ、いえ! それでは、私は休ませてもらいますね!」


 と、そそくさ引っ込んでいく寝狐。

 けれど、蓮は彼女が最後に見せた表情が、滅茶苦茶気になった。

 その理由は簡単。


(なんだ……あの邪悪な笑みは)


 いやいやいや。

 きっと見間違いない。

 短い付き合いだが、寝狐はあんな顔をする狐ではない。


「さて、掃除してみるか!」


 …………。

 ………………。

 ……………………。


 そうして数十分後。

 ざっくりとだが、形だけは綺麗になった部屋。

 あとはゴミ箱の中身をまとめて、とりあえずは終わりだ。


 と、ここで事件は起きた。

 それはちょうど、蓮がゴミ箱の中身をひっくり返し、ゴミ袋に移し替えた時だ。


「ん、なんだこのクソ長レシート?」


 ひらひらと舞い落ちたソレ。

 蓮はそれを拾い、本当になんとなくそれを見てみる。

 するとそこに書いてあったのは。


「こ、これは……エロゲが十、二十……三十本、だと!?」


 無論、蓮に買った覚えはない。

 そもそも、蓮は大量購入をしない派だ。

 となると。


(あ、あれかな? ゲームを売った時のレシートかな?)


 それ系のレシートの中には、一見して購入時の物と見分けがつかないものもある。

 そうだ、きっとそうに違いない。


(まぁ、あまり深く考えなくていいか――掃除が終わったら、体調が悪い寝狐のために夕飯も作らなきゃだしな)


 蓮はそんな事を考えたのち。

 件のレシートをゴミ袋の中へ、つっこむのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る