第十六話 ヒメは悶えてみる

 時は蓮とのエンカウントから数分後。

 現在。


「っ……はぁ、はぁ」


 ヒメは全力ダッシュで、校舎裏までやってきていた。

 その理由は簡単だ。


「な、なんであいつが体育倉庫に来るのよ!?」


 しかも、いったいどういうつもりなのか。

 蓮は――。


(む、昔のあたしを覚えていて……変わってなくて、安心したって)


 てっきり、蓮には忘れられていると思った。

 ヒメが彼の幼馴染だということを。


「…………」


 ついつい蓮を突き飛ばし、逃げ出してしまった。

 だが、逃げ出さないわけがない。


 ずっと。

 小さい頃から変わらず、大好きな蓮と二人きり。

 しかも、その状況でそんな事を言われてしまえば。


(あたしと結婚するって約束は……覚えてくれている、わけない……か)


 もしも、それも覚えてくれていたら、とても嬉しい。

 だがしかし、なにはともあれ。


 これは大いなる進歩だ。


 ヒメがそう考える理由は簡単。

ヒメはツンツンした性格を拗らせすぎ、蓮に近づけなくなっていた。

でも。


「今回の事を口実に、蓮とまたお話できるようになるかも!」


 言って。

 ヒメは鼻歌スキップで、一人歩き始めるのだった。

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