第八話 狐飯

 なんだか断る事も出来ず。

 寝狐が料理を作る風景を眺めて数十分。


「大変お待たせしました!」


 と、台所から聞こえてくる寝狐の声。

 続けてやってくるのは、寝狐さん本体。

 彼女は料理を机に並べながら、蓮へと言葉を続けてくる。


「あまり豪勢なものは出来ませんでしたけど、よろしければ食べてみてください!」


「豪勢じゃないって……全然そんなことないんだけど!?」


「そうでしょうか?」


 と、ひょこりと首を傾げている寝狐。

 蓮はそんな彼女へと言う。


「ハンバーグもあるし、バターコーンもあるし……こっちはポテトだよね!? というかこれ、レストランとかで出てくるまんまだよね!?」


「あ、はい! 参考にさせていただきました!」


「こんな材料、うちにあったけ?」


「今、買ってきました!」


「…………」


 はて。

 寝狐は台所に行ってから、外に行っていなかった。

 と、ここで蓮はふと思い出す。


(そういえば寝狐、家の中にも急に出てきたな)


 ひょっとすると寝狐。

 任意の場所に、瞬間移動する能力でも持っているのかもしれない。

 さすがは神様だ。


「蓮さん、蓮さん! そんなに料理をジッと見つめていないで、早く食べてみてください!」


 と、聞こえて来る寝狐の声。

 彼女は狐尻尾をふりふり、蓮へと言葉を続けてくる。


「蓮さんのために――蓮さんが美味しく食べてくれる様に、愛情をたっぷり込めて作ってみました! よければ、温かい内に食べて欲しいです!」


「あ、えと……じゃあ、いただきます」


「はい、どうぞ!」


 そして食べた一口。

 それはもう、後にも先にも忘れられない味だった。


(なんだこれ……滅茶苦茶うまい!?)


 レストランの様に上品かつ。

 母が作ってくれた懐かしさを併せ持つ。

 そんなハンバーグ。


 一口噛む事に肉汁が口の中に広がる。

 しかも。


(っ……中に入ってるこれ、チーズか?)


 正直、あまり腹は減っていなかった。

 しかし、蓮はもう自分の手を止められなくなった。

 そして気がつけば――。


「ごちそう……さま」


「はい、お粗末様でした!」


 と、狐耳をピコピコ寝狐様。

 そんな彼女はひょこりと首を傾げながら、蓮へと言葉を続けてくる。


「その……どうでしたか? 私の料理、蓮さの口にあったでしょうか?」


「いや、まぁ……正直、滅茶苦茶美味しかった」


「そうですか!」


 と、ぱぁっと表情を輝かせてくる寝狐。

 彼女は食器を下げながら、蓮へと言ってくるのだった。


「私は食器を洗ってきますので、蓮さんはゆっくりしていてくださいね?」

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