第十四話 蓮は登校してみた②

 キーンコーンカーンコーン。

 と、鳴り響くチャイム。


「よし、じゃあ数学はここまで」


 と、言ってくるのは教師。

 教師は片づけをしながら、蓮達へと言葉を続けてくる。


「それじゃあ宿題の回収だ。各自、教卓に持ってきてくれ――あと桜間おうま、職員室まで持っていくの手伝ってくれ」


「はい、わかりました」


 と、席を立つのは一人の少女。

 黒髪ツインテール、スタイル抜群豊満ボディな彼女。

 その名は桜間ヒメ。


 生徒会長にして学級委員長。

 成績学年一位にして、テニス部、バスケ部、サッカー部の掛け持ちエース。

 さらに真面目で優しく、滅茶苦茶モテるときた。


 あとまぁ。

 追加で言うとしたら。


(俺が幼馴染だってこと、向こうはもう忘れてるだろうな)


 実家が隣同士で、昔はよく遊んだものだ。

 将来結婚する約束とかしたのは、完全なる黒歴史だ。


 などなど。

 蓮がそんな事を考えている間にも。


「先生の話を聞きましたね? お喋りをしていないで、早く持ってきてください」


 と、氷のような声を放ってくるヒメ。

 同時、教室に訪れる静寂。


 しばらくすると。

 クラスメイト達は、そそくさと問題集を教卓へ持っていき始める。


(そういえば、今日は俺も宿題やったんだったな)


 やれやれ。

 面倒くさいが、持っていくとするか。

 せっかくやったのに、持って行かないのは意味不明すぎる。


 考えたのち。

 蓮はゆっくりと、教卓へと向かう。

 そして、問題集を提出しようとした……まさにその時。


「蓮……くん?」


 と、驚いた様子の表情を向けてくるヒメ。

 蓮はそんな彼女へと言う。


「えっと、なんか用か?」


「いえ……なんでもありません。提出したなら、早く次の授業の準備をしてください」


「はいはい。おまえに言われなくても、それくらいはするよ」


「…………」


 と、何か言いたげな視線を向けてくるヒメ。

 これはきっと、お小言でも言おうとしているに違いない。


(昔はツンツンしていて、でもどことなく懐っこくて……そんな可愛げのあるやつだったけど)


 いったいどこで、こんな突然変異起こしたんだか。

 今は絡まれないうちに、撤退あるの――。


「おい、黒来!」


 と、蓮の撤退を阻むように、近くにやってくるクラスメイト。

 どいつもこいつも、話したことないような奴らだ。


 まさかあれか。

 問題スマートに解いたから『お前調子に乗ってんな』的なやつか。

 だとしたら――。


「おまえ、勉強できんのな?」


「それな、先生も驚いてて普通に笑ったわ」


「ってか、出来るならいえよ! テスト前とか、一緒に勉強しね?」


 などなど、口々に言ってくるクラスメイト達。

 正直、意味不明だ。


 蓮はこいつらと仲良くない。

 っていうか、さっき言った通り話した事ない。

 なので、こいつらと勉強する義理など――。


『学校の皆さんにも、もうちょっと心を開いてみてください!』


 と、ふいに思い出す寝狐の言葉。

 故に蓮は少し考えたのち、クラスメイト達へと言う。


「あぁ……時間が合うようだったら、付き合うよ」


 そして、蓮は今度こそ席へと撤退していく。

 ……のだが。


「あいつ、思ってたより話しかけやすいな?」


「思った。もっと気難しい奴かと思ってたわ」


 と、クラスメイトのそんな声。

 それが蓮の背後から聞こえてくるのだった。

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