十万字を超える小説を書くために

あきかん

第二文芸部史上最大の危機

 三野瀬大地14才。屋田野瀬中学第二文芸部所属。

 これが簡単な僕のプロフィールだ。第二文芸部所属部員は2人。同級生の幼なじみかつ部長の三枝三枝子さえぐさみえこと僕だけだ。巫山戯た名前だが本人はえらく気にいっているらしい。三枝^2というペンネームからもその事が伺える。ただ、残念な事に創作活動は一切しないのだがそれは置いておくとして。

 第二文芸部とは、三枝三枝子が遊ぶためだけに作った部活だ。我が中学は例外なく部活動に従事しなければならない。親からすれば願ったりの事なのかもしれないが、僕たち学生や面倒を見なければならない教師にはたまったものでは無い。かくいう第二文芸部の担当教師もその類いの人間であった。藤堂葵24才。大学を出たばかりの彼は馴れない教師生活の愚痴をよく部活でこぼす。生徒相手に何をやってんだと思ったが、先生にも息抜きは必要なのだと悟ることにした。

 学校内の落ちこぼれが肩身を寄せて駄弁っているだけの部活であったが、先日の生徒会長選挙を切っ掛けに激震が走った。

 前生徒会長藤原道隆は屋田野瀬中学に部活の乱立を招いた張本人であった。部活の規定人数の撤廃。およそ活動実態の無い部活動の承認とそれに対してすら予算配分を認めた。よく言えば学校内のマイノリティに対して理解があった。悪く言えば無秩序をもたらしたと言えなくも無い。

 その彼が落選した。2期目を狙っていた彼であったが不祥事が発覚しそれが波紋を呼んだ。先ずは部活動に関わりたくない教師陣から過剰な内申点をもらっていたらしい。まあ、これは疑惑に過ぎないのだが、疑惑が生まれた事がそもそも不味かった。次に部活予算の流用が発覚。正確に言えば、部活動の範囲内であったかもしれない。旅行部が誕生し長期休みに旅行するという部活動に生徒会長であった藤原道隆も参加。ちゃっかり彼の旅費にも部活予算が使われた。と言っても電車運賃程度のものであったが、このような事が複数発覚したのが大きかった。主流派である伝統部活派の一派に推された八木勇征に生徒会長の座を明け渡した。

 八木勇征は部活改革を掲げ、増えすぎた部活の削減に乗り出した。前生徒会長と癒着が疑われた部活動は軒並み廃部。次に押し寄せてきたのは活動実態のない部活への粛清。当然、我ら第二文芸部もその標的にされた。

「活動実態を証明するために、第二文芸部員が執筆した十万字を超える小説が書かれた文芸集を生徒会に提出する事。なお、期限は今月末までとする。提出されない場合、第二文芸部は活動実態がないものとして廃部とする。生徒会長八木勇征。」

 担任の藤堂葵が生徒会から送られた通知文を読み上げた。

「いいか!お前たち。今月中に小説を書き上げろ!さもないと俺の立場がヤバい!!」

 教師の風上にも置けない発言と共に、僕たちは小説を書かされる事になってしまった。くしくも僕の誕生日である10月4日の事であった。

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