小説を書こう
畑中唯との関係 その①
僕は家に帰り畑中へラインを送った。
〉畑中さん、今日はありがとうございました。
〉胡の馬は北風に向かっていななき、越地の鳥は南の枝を求めて巣くうと申します。文芸部が懐かしくなったの?感謝の言葉なんて珍しい。
漢詩かよ。これまた面倒なことを。
〉いやいや、大変助かりました。この御恩はいずれ必ず返します。
〉なら、今度つきあってよ。
〉できることなら。
〉大丈夫。デートだから。
デートかよ!金あったかな。思わず財布を確認した。
〉手心を加えてくれるとありがたいのですが……
〉大丈夫。金のかかるような所には行かないよ。渡部先生の書物の整理だから。
やめてくれ。あの本の山を片付けるのをデートとは言わん。二度とやりたくはなかった。
〉三野瀬は図書委員長でしょ。やる義務はあると思うんだけど。
〉え〜〜、やだ……
〉先程、恩は返すと言わなかった?
なんで僕が行かないと行けないのか。正直、畑中と渡部先生に挟まれるのは勘弁したい。
〉むしろ僕が行くと邪魔でしょ?そこはお二人で蜜月を深めてはどうかと提案します。
〉渡部先生のご指名もあるのよ。わたしの顔を潰すようなことをするつもりなの?
ここまで言われたら逃げられないか。
〉わかった。行くよ。それでいつ頃?
〉今度の日曜日。
明後日かよ。ふざけんな。急すぎる。しかし、行くしかないだろう。
〉わかった。行くよ。待ち合わせでもしてみますか?デートなんで。
〉当日の9時、桂川駅東口に集合で。
〉それで、他の部員は来るのか?
〉来るわけないでしょ。デートだし。
まったく文芸部員も質が落ちた。僕がいた頃は駆り出されたものだが。これは畑中が悪いな。
〉まぁいいや。それでお願いします。
〉昼めしは先生が奢ってくれるらしいから。それじゃ日曜日に。
騙された気分だ。畑中と渡部先生が僕を無限にしなかったのはきっとこういうことをやらせたかったのだろう。本の整理というが、ほとんどが力仕事だ。車へと積み込みそれを図書館と学校へと持っていく。そして、学校へと持っていった本を寄贈本として保管する。
これが嫌で誰も図書委員にならないのだ。結果的に屋田野瀬中学では文芸部が図書委員を兼ねることになる。
渡部先生が図書室の暴君と言われる所以だ。渡部先生の本の片付けが行われるということは、彼の私物の本の保管庫とかしている我が図書室の整理の始まりを表している。つまり、図書準備室を根城にしている第二文芸部は否応なく渡部先生と関わらざるおえなくなったのだ。あのはた迷惑このうえない本の悪魔と。
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