畑中唯との関係 その②

 小説をだらだらと書いている。冒頭はなんとか。異世界もまぁありきたりな剣と魔法のファンタジーにすることにした。

 彼の目的は現実世界へと帰ること。ぼくの目的は彼が持ち去った『夏への扉』を取り返すことだ。そこでなんやかんやでぼくが成長し現実世界へと帰って行ければいいな、とぼんやりとした流れは決めた。

 小説を書いていると畑中の顔が浮かぶ。なぜ付き合えたのか。なぜ振られたのか。それは未だにわからない。しかし、当時は付き合っていた事は二人の共通認識として存在している。

 屋田野瀬中学に入ったばかりの頃、つまり一年の時に畑中と出会った。あれは入学初旬、まだまだ花香る季節に浮かれていたのかもしれない。屋田野瀬中学ではご法度の授業中に読書にふけっていた。くしくも、国語の授業つまり渡部哲の授業中のことであった。

「三野瀬くん、何を読んでいるのかね。」

 と、渡部先生は隣にたって聞いてきた。

「江國香織の『きらきらひかる』。」

「なかなかの名作を読んでいるね。」

「そうですか?教科書よりは面白いので。」

「なかなか言うね。後で話をしようか。」

「いやですけど。」

「まあそう肩ひじはらずに。」

 なぜ目をつけられたのかわからなかった。授業の邪魔をしていたわけではない。聞いていなかっただけだ。それだけで呼び出されるとは思いもしなかった。

 斜め前の福谷は教科書の陰でゲームをしているのに、なんで僕だけ注意されなければならないのか。あんまりにも理不尽だ。

 そうは思っても従ってしまうのがヘタレな自分だ。それは今も変わらない。呼び出されたのは何故か図書室だった。渡部先生のホームグラウンドである。

 しかも呼び出されたのは僕だけはなかった。畑中唯もその場にいた。

 感動的なもしくは運命的な出会いではなかった。渡部先生に目をつけられて文芸部へ勧誘されたのだ。

「君たちは素晴らしい。三野瀬くん。その歳で江國香織をたしなむなんて素晴らしい才能だ。それを伸ばしてみないかね。何なら本はいくらでも貸すよ。畑中さん。君も素晴らしい。『ブギーポップは笑わない』は異能バトル小説の古典文学と言って良い。あの作品があったからこそFateや西尾維新の作品群が産まれたと言って良い。それを中学一年でたどり着くとは文学的な素養がある。ぜひとも君たちには我が文学部へと入っていただきたいのだ。」

「……。」

「……。」

 僕たち二人は渡部先生の前で本を読むという屋田野瀬中学では決してやってはいけない行動をした同士であった。僕らはてっきり注意されるものだとばかり考えていたため、呆気にとられ声も出なかった。

 何はともあれ、こうして僕と畑中の関係は始まったのだ。

 

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