あらすじを書こう その①

「お前ら何してんだよ。」

「お気づかいなく〜。」

 三枝が笑いながら手を振ってきた。藤堂先生は口を押さえて笑いをこらえている。

「解散。解散しよう。邪魔が入った。」

「そうね。三枝さんが来たし。」

「いやいや、お気になさらず。どうぞ続けてください。」

 三枝が図書室に入ってきた。畑中は席をたつ。張り詰めた雰囲気が漂ってきた。

「三枝さん。わたしは帰りますよ。後は三野瀬さんと仲良くやってください。」

「なんかわたしのこと嫌っていない?」

「はぁ!?どの口が……。」

 お前ら以前に何やったんだよ。畑中が三枝のことを嫌っていたのは知っていたが、ここまでとは。

「それじゃ。三野瀬、小説の書き方を知りたかったらまた文芸部に顔を出しなさい。歓迎するわ、渡部先生はね。」

「嫌な言い方するな。」

「嫌味だからね。」

「まあ、だいぶ助かったよ。またよろしく。」

 ぼくは去りゆく畑中の背中に手を振った。残された僕たちはどうすれば良いのか。僕は三枝と畑中に何があったか知りたくない。しかし、藤堂先生は違うだろう。

「三枝〜、畑中と何があったか言ってみ?ここだけの秘密だから。」

 ほらこうなる。藤堂先生に教師としての線引などない。少なくとも彼の興味が優先される。

「何もないですよ。藤堂先生。」

 三枝の冷めきった返事。珍しい。本当に何があったのだろうか。

「三野瀬は知らんのか。ここだけの話。」

「知りませんよ。知っていてもあなたにだけは教えませんよ、藤堂先生。」

「お前ら冷たいな。先生、悲しい。」

 藤堂先生はそう言って引き下がった。これもまた珍しい。三枝も藤堂先生に続いて図書準備室へと帰っていった。僕もついていくべきなのだろうか。それとも執筆の続きをやるべきか。

「大地なにしてんの?早く来なよ。」

 三枝の声がした。これは従うしかなさそうだ。図書準備室へと向かった。


「大地、小説かけた?」

「そんなすぐ書けるわけないだろ。」

「わたしはだいぶ書けたよ。ほらほら見てみ。」

 と、どこから持ち出して来たのかわからないノートパソコンを開いて見せてきた。

「五千字だと……。」

 俺は思わず呟いてしまった。三枝のやつ、昨日の今日でそこまで書いたのか。

「三野瀬はどこまでやったんだ?」

 藤堂先生が聞いてきた。僕は畑中とやっていたことを説明しメモと軽く書いた文章をみせた。

「流石、文芸部部長は真面目だな。」

「それで何かいいたそうですね。」

「真面目すぎるかな、と思っただけだよ。まずは書いてみればいいじゃん。」

 なんだそんなことか。それならまあ書き始めても良いか。

「わたしも何も考えずに書き始めたよ。」

 横から三枝が口を出す。確かにそうだ。書き始めなければ小説は書き終わらない。

「ただ、まあお前の設定とか読んでみたが1つ欠点がある。マクガフィンがない。」

 マクガフィンだと!?何だそれは。

「マクガフィンがわからないって顔をしてるな。とりあえず、あらすじだけ書いてみろよ。そしたらマクガフィンを教えてやる。」

 藤堂先生は偉そうに言う。仕方ないのであらすじを書き始めた。

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