VS畑中唯 その①
もし仮にこの世界に雨が降らなかったとして、空へと上がった水たちは大地に戻ることはできないのだろう。
それは少しさびしいな、とわたしは思う。だから雨が降った日は、すこし気持ちは晴れるのだ。
最近の大地は畑中唯と関係が修復したように感じる。まあそれは、わたしとは関係のないことなのだが、はたして小説は書いているのだろうか。それとまた文芸部へと戻ってしまうのではないか、とすこし不安に思う。
それはそれで大地の勝手ではあるので、わたしが口をはさむことではないのだが、わたしの小説が大地との関係を元に書いているため、気が立って妙な胸騒ぎが鳴り止まないのだ。
あれこれ考えが浮かびは消えて執筆に集中できない。これは間違いなく大地のせいなので、ことがおさまったら何か奢ってもらおうか。何が良いかな。山月堂のイチゴパフェがいいな。あそこのイチゴパフェはふんだんにイチゴを使っていてとても美味しいのだ。早く面倒な小説は書き上げて食べに行こう。もしかしたら、藤堂先生が奢ってくれるかもしれない。そもそもがあの先生の事情で小説を書かされているのだ。それぐらいはしてもらって罰はあたらないだろう。
こんなことを考えてしまうのは小説が行き詰まったからかもしれない。恋愛小説。あの日言ったとおりにわたしは少女漫画はよく読むので、なんとなくこんな感じの展開だろう、とあたりをつけて書いていたつもりではあったのだが、結局それもテンプレの展開をそっくりそのまま採用するわけにも行かず、つまるところキャラクターのモデルにしてしまったので違和感が半端なく他の恋愛漫画などをなぞることができなくなってしまった。
それもこれも藤堂先生のせいだ。何が、「三野瀬と三枝本人をモデルに書けばすぐできるだろ。」だ!まったくもってすらすら書けない。いや、それ以前にわたしと大地が付き合うなどという戯言を、仮にそれがフィクションだとしても想像することがあまりにもおかしく、そんな馬鹿げたはなしを真剣に考えるのも嫌になってきた。
そうだ。ラブコメだ。そうしよう。それが正解な気がしてきた。わたしと大地の普段のやりとりをそっくりそのまま文章化すればいい。ネタがないなら作ればいい。思い立ったが吉日。早速、大地に連絡しよう。
〉明日空いてるよね。遊ぼうよ。
〉ごめん。明日は畑中さんと用事がある。
何だそれは。昨日の今日でもう休日デートかよ。早い。決断が早い。これはわたしもうかうかしてられない。
ん?何かおかしな思考になっている。焦るな。冷静になれ。大地とならば学校であえる。部活で会ったときの会話をそのまま小説に書けば良いのだ。焦ることはない。
〉今度、何か埋め合わせするよ。それじゃ学校で。
わたしが混乱している間に大地から返信がきた。まあそうだろう。結局、大地はわたしを一番に考えてくれるのだ。常に優先しなくても、最後にはわたしのもとへと戻ってくる。
〉覚悟しておいてね。それじゃ学校で。
と、返信を返してラインを閉じた。
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