風紀委員長 蜂須賀翔吾 その②

「何……。風紀委員だと……。」

 藤堂葵は、三野瀬大地から風紀委員が動いているとの話を聞いて、思わず声が出た。

 藤堂は、もう一人の生徒三枝三枝子を物欲しそうに見つめた。三枝は心底落胆したような表情をみせた。

 藤堂は教師であった。その教師が一生徒に怯え、一生徒に助けるような顔をしたことに三枝は軽蔑の眼差しを向けたのだ。

「もう第二文芸部は潰れてもいいんじゃない?」

 三枝はそういった。

 彼女は、第二文芸部の創始者であり部長であった。その彼女が半ばあきらめたように呟いた。

「いや、まだ手はある。それに風紀委員が動いているという話が真実だとは限らない。そうだろ、三野瀬。」

 藤堂は三野瀬に話を振った。

「仮にまだ風紀委員が動いていなかったとしよう。だとしてもこの話を僕にしたのはあの渡部先生だ。この意味は藤堂先生ならばわかるはず。事実にしろ嘘であったとしてもすぐに風紀委員は動き出す。そういうことだ。」

 藤堂は苦虫を噛み潰したような表情をみせた。確かに、三野瀬の言うとおりだ。渡部先生が三野瀬に告げたことが問題なのだ。風紀委員は必ず動く。それだけの繋がりが渡部先生と風紀委員長蜂須賀翔吾にはあるのだ。

「手はある。藤原道隆に動いてもらうか、八木会長におさめてもらうかだ。前者が実現できれば、第二文芸部のことなど忘れて藤原道隆に全力をそそぐだろう。後者なら生徒会と風紀委員の全面戦争だ。蜂須賀翔吾という個でもっている風紀委員が生徒会に勝てるとは思えない。どちらかを動かせれば当面の問題は解決できる。」

 そう語る三野瀬の眼光はどこか威圧的であった。その雰囲気に藤堂はたじろぐ。三野瀬は本気で渡部先生に腹を立てているのだろう。思い通りになるものか、という反発心が手にとるようにわかる。

「ところで、藤原道隆はいま何やってるの?」

 場にそぐわない戯けた声で三枝は言った。確かに、現在の藤原道隆の所在は不明だ。これだと語弊があるか。かつて兼任していた多数の部活に渡り歩いてふらふらしているらしい、という噂は耳にしている。故に、放課後に彼がどこにいるのかわからない。今すぐ話を持ちかけることができない。

「山岳部と山に行くとか言っていた気もする。」

 三野瀬が言った。よりによって山か。

「それじゃ、ラインでも送ってみるかな。まあ、藤原ならなんとかしてくれそうな気もする。」

 三枝が答えた。

「お前ら、藤原道隆と知り合いなのか?」

「当たり前じゃん。」

「むしろ藤堂先生は藤原のラインとか知らないのかよ。」

 さも当然のことのように二人は答えた。藤堂は困惑していた。まるで自分だけハブられているかのような心境であった。

 これは藤堂が思い出せないだけだ。藤原道隆は第二文芸部に遊びに来たことが何度かある。彼は弱小の部活によく顔を見せていた。故に、三野瀬と三枝はその時に藤原と仲良くなり連絡先を交換していたのだ。藤堂はその際も、藤原と二人のやりとりには参加せずゲームに熱中していた。

「そういえば、大地。もう一つ手はあるよ。風紀委員に乗りこめばいいんだよ、今からすぐに。」

 三枝の声が図書準備室に響いた。三野瀬ははっとした顔をしている。藤堂は面倒は嫌だな、と思った。第二文芸部より自己保身の算段について思考を巡らせていた。

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