番外編 畑中唯との恋愛事情

 僕と畑中の恋愛事情について述べておこう。現在は別れたわけだが、数ヶ月前まで付き合っていた、ということになっている。

 きっかけについては既に語った通り。なんとなくその場のノリで付き合うことになったのだが、その裏で渡部先生が暗躍していた。

 渡部先生は僕がいないところで暗に僕と畑中が付き合っているとほのめかしていたのだ。それを聞いていた他の文芸部員は僕らが付き合っていると思い込み、そして実際に付き合いだした。

 後日、この件を知った僕は渡部先生を問いただした。

「三野瀬くんは文学の性的な部分に興味がひかれているのだろう?ならば、実際に女性と付き合ってみることで本をより深く読めるようになると思ったのだよ。」

 と、あっけらかんと答えた。まあそれは良い。実のところ、女の子と付き合ってみたかったのは本当だ。僕も健全な中学生男子である。性に関しては人並みに興味があった。

 しかし、渡部先生の介入はそれだけでは終わらなかった。中学生である僕らは健全に付き合っていた。それだけで僕は満たされていた。その平和な日々の背後で渡部先生は畑中の本性を育て始めていたのだった。

 まず、三枝のことを伝えて畑中を刺激したらしい。これは畑中本人から聞いた。当然、僕は問い詰められた。

 ただの幼なじみだ。畑中が考えているような関係ではない。と何度も説得を試みるも無駄に終わった。いや、このときの畑中は僕を責める快感に目が覚めたのだ。

 あの日は図書委員の仕事で図書室に来ていた。畑中と僕の二人だけだった。何故か他に人は来なかった。これは後に渡部先生の謀略の結果であったことを知ったのはつい最近のことだ。その日、図書室は立入禁止のおふれがまわっていたらしい。

 畑中は僕に迫ってきた。抱かせろ、と口に出し押し倒された。

「渡部先生が言っていたの。好きな相手はねじ伏せれば良いって。抱いてやればこの年頃の男なんて簡単に奪うことができるって。」

「落ち着け、畑中!渡部先生の口車に乗せられるなよ。あれは本に呪われた人間だ。あいつは本が面白く読めれば他の事なんてどうでもいいんだ。冷静になれよ。僕たちは本だけ読んで生きていたいわけじゃないだろ。まだまだ他の生き方を模索しても許されるはずだ。むしろそちらが健全だ。本を深く読むためだけに街へ出るような生き方は狂ってるぞ。まだ引き返せる。手を離せ。」

「でも、セックスには興味はあるんでしょ?」

「めっちゃある……。」

 やっちまった。これじゃ同意したも同然じゃないか。

「なら、いいじゃない。」

 辞めて下さい。畑中さん。そんな捕食者が獲物を見るような目でみつめないで。


「あ、お邪魔しました。大地、校内ではほどほどに。それじゃ、家で待ってるから。」


 三枝が間の悪いタイミングで図書室へと入ってきた。そして、何事もなく消えていった。

 畑中の力が緩む。そのすきをついて畑中を振りほどいて立ち上がった。

「お互い冷静になる時間が必要だと思う。それでは僕も帰ります。さようなら。」

 逃げ口上を早口で言い終えて、駆け出すように図書室から逃げた。

 後日、渡部先生を問い詰めると

「セックスすればよかったじゃない。体験すればより面白く本が読めるようになったかもよ。」

 悪ぶれもせずにこう答えた。この人に付いていくのはやめよう、と僕は固く誓ったのだった。

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