④不協和音
「咲子?・・・どうしたぁ?」
電話をかけた時間が二十三時を過ぎていたのとあたしの鼻声で不審に思ったのだと思う。開口一番、紅美はそう言った。
あたしは、とにかく、さき程の深雪との電話内容の一部始終を紅美に捲くし立てた。紅美は「うん」「うん」って言いながら静かに聞いてくれた。
「紅美は、深雪ちゃんの台詞、どう思う?」
一通り話し終えた後、あたしは紅美に意見を促した。
「なるほどねぇ・・・けど、咲子、深雪ちゃんのテンションに時々付いていけない的な事、言ってなかったっけ?」
確かに、数日前のメッセージのやりとりで、あたしは紅美にそう伝えていた。
「うん・・・言った」
「だったらさぁ、いいんじゃない?シフト、被ってない方が」
想定外の回答に、あたしは戸惑ってしまった。紅美は続けた。
「それに、咲子だって、
「けど、あたし、本当は公文の補助先生がしたかったんだよ?」
「それは知ってる。だけど、深雪ちゃんじゃないけど・・・それは、その時に断らなかった咲子の落ち度だよ」
瞬間、心が凍った。
(紅美まで、そんな言い方するの?!)
心の中ではそう思ったけれど、あたしは平静を装った。
「そうだね・・・ごめんね、夜分に変な電話して」
「それはいいよ~気にしないで!ただ、あたしは本当にこれでよかったと思ってるよ?学校でもバイトでも常に一緒だと・・・もっときつかったと思うよ?」
「…うん」
「それに・・・こないだ、偶然学食で咲子に会った時、深雪ちゃんともちょっと喋ったけど、明るくていい子だと思ったけどなぁ・・・あたしは」
(そう・・・紅美の言う通り、深雪ちゃんは悪い子ではない。だけど・・・)
あたしは心の中で呟いた。
「そうだ!咲子、土曜日バイトないなら、カラオケ行こうよ!」
あたしの気持ちが落ちているのを察してか、紅美は急にそんな事を言い出した。
「ごめん・・・土曜日は、
あたしは咄嗟に嘘をついた。
大学に入ってから、怜也からの連絡は極端に減っていた。いつか紅美と会った時には、そんな相談もしようと思っていたのに・・・一度凍ってしまった心は、なかなか解けそうもなかった。
「そっか!時枝くんとは離れてもラブラブなんだねぇ~ご馳走様っ!」
この場の空気をどうにかしようと必死な紅美の気持ちは伝わった。
だけど、他人の気持ちを推し量れる度量など、今のあたしには到底なかった。
電話を切った後、あたしは暫く放心状態だった。
紅美とは高二からの付き合いだけど、この二年間、一度もこんな気持ちにさせられた事はなかった。あたしは紅美が大好きだった・・・そして、今でも大好きなのに・・・。
(やっぱり・・・物理的に距離が離れると、心も遠く離れちゃうのかな・・・)
咲子『土曜日、会える?』
怜也『微妙』
咲子『微妙って?』
このまま三日間放置されている怜也とのチャットのやりとりを眺めていたら、また涙が溢れてきてしまった。
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