➄従姉妹の訪問
あの日を境に、紅美とはギクシャクしたままだった。
だけど、張本人の深雪は相変わらずの調子で何事もなかったかのように接して来るから、あたしも普通に接した。
今にして思う事がある・・・深雪とシフトが被ってなくて本当によかった。
結局、怜也から返事がきたのは、放置されてから十日も経ったゴールデンウィークの初日だった。
怜也『バイトのシフトがはっきりしなかった。明日ならOKだよ』
その日、あたしは昼過ぎに起きた。
厳密に言えば、昼前には目覚めていたけれど、ベッドの上でゴロゴロしていた。
その時に、怜也からメッセージが届いた。
本当は、すぐにでも『うん!』と返事したかった。だけど、これでホイホイと返信してしまうのは何だか悔しい。あたしは、暫く放置してやる事に決めた。
居間に行くと、
瑛子ちゃんは隣の市に住んでいて、母さんのお姉さん・・・つまりあたしの伯母さんの娘にあたる、四歳年上の従姉妹だ。だけど、瑛子ちゃんは従姉妹のあたしより叔母さんである母さんと仲が良かった。長期休暇になると、瑛子ちゃんは決まって泊まりで我が家に遊びに来る。なのに、あたしは瑛子ちゃんと遊んだ事が
「あ・・・瑛子ちゃん、いらっしゃい」
「お邪魔してます・・・今、お目覚め?」
瑛子ちゃんは笑った。顔立ちはあたしと似ているが、片親で育ったあたしと違って瑛子ちゃんは裕福なのが伝わるような雰囲気を醸し出していた。
実際、瑛子ちゃんちはお金持ちだった。だけど
「咲子。お腹空いてるなら、カレーがあるわよ」
「母さん達は?」
「もう食べたわよ。今、何時だと思ってるの?・・・で?仕事は、どうなの?」
母さんはあたしに向けた顔を瑛子ちゃんに戻すと、笑顔でそう訊いた。
(そっか・・・四つ違いって事は、瑛子ちゃんは今年から社会人になったのかぁ~)
そんな事を思いながら、あたしはカレー皿にご飯とルーをよそい、居間ではなくキッチンのテーブルで食べた。何となく、二人の間に入ってはいけない様な気がした。そして、それは今日だけでなく、毎回感じている事だった。
「そんなに大きくはないんだけど、とってもアットホームな会社なの」
「よかったわ~。そこでは、得意の英語も活かせるんでしょ?」
「海外の顧客もいるらしいから・・・多分ね」
「とにかく、愉しみながら頑張んなさい」
「ありがとう、
そう。瑛子ちゃは母さんの事を『薫さん』と呼んだ。それがあたしにはずっと違和感だった。だけど、親族の誰もそれを指摘しなかった。その全てに違和感を感じながら、あたしは十八年の歳月を過ごしてきた。
「咲ちゃんは、大学生活、どう?」
「え?」
居間から急に振られて、焦ってしまった。
「文芸学部、だっけ?」
(あぁ・・・母さんが言ったのか・・・)
「うん」
「私も迷ったんだよね~文芸学部と国際系学部」
「・・・何で国際系学部に、したの?」
あたしは返す言葉に迷って、興味もないのに無理矢理質問をした。
「仲良かった友達が文芸学部にしたからよ」
瑛子ちゃんは笑っていたけれど、さっきの笑い方とは少し違っていた。それはとても淋しそうな笑い方だった。
「え?」
あたしは一瞬、聞き間違えたのかと思った。
「咲子っ」
母さんが険しい表情であたしを睨む。
「え?」
もう、何が何だか解からなかった。
(あたし、何か変な事言った?!)
「薫さん、大丈夫よ。もうすっかり過去の事だから・・・咲ちゃん、カレー食べ終わったら、咲ちゃんの部屋で少しお話できない?」
「え?」
さっきから自分の回答が「え?」のオンパレードで、可笑しかった。
「ダメ・・・かな?」
「ぁ・・・い、いいよ」
あたしは胃に流し込むようにカレーを食べた・・・否、飲み込んだ。
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