フレネミー

山下 巳花

①入学初日

 桜舞う、四月。

 晴れて女子大生となったあたしは、友達の紅美くみと一緒に大学の門をくぐった。桜の花びらで桃色に染まった構内の歩道を歩きながら、あたし達は体育館へと向かった。

 春の柔らかな風が、紅美のボブカットをサラサラと揺らす。

「やっぱ、学部も咲子さきこと同じにすればよかったぁ~」

「学部違っても遊ぼうよ」

「勿論だよ!」

 パステルカラーのスーツの波に紛れながら、あたし達は入学式の会場へと胸を弾ませながら移動した。

 

 会場では好きな場所に着席できると思っていたら、クラス別に席が割り当てられていた。だから、紅美といられるのはそこまでだった。

「じゃあ、後でね!」

「うん、後で!」

『1ー文B』と判ったあたしは、その場所へ行き適当に腰掛けた。周りに知っている人は一人もいない。急に不安になってきた。

「初めまして!」

 席に着いて暫くすると、先に着席していた隣の席の子に声を掛けられた。背中までのダークブラウンの髪をふわふわと巻いた、とても綺麗な顔立ちの子だった。

「ぁ・・・は、初めまして」

 あたしは愛想笑いをした。

(大胆な子だなぁ・・・あたしとはちょっと合わないかも・・・)

 そんな事を思っていたら、「あたし、芹沢せりざわ深雪みゆき。あなたは?」と訊かれて、咄嗟に「高峰たかみねです」と返してしまった。

「下の名前は?」

「咲子」

「じゃあ『さきちゃん』って呼ぶね!あたしの事は『みゆき』でいいよ!」

「は・・・はぁ・・・」

 圧倒されてしまったあたしはとりあえず、作り笑顔でその場を乗り切った。


 式が終わって教室に入ったら、「便宜上、暫くは出席番号順で座ってもらいます」と担任から説明があった。

 (よかったぁ~。とりあえず、芹沢さんから離れられる)

 そんな事を思っていたら、彼女の席はあたしの真ん前だった。

(確かに・・・「せ」と「た」だもんな)

 そんな事を思っていたら、「さきちゃんとは縁がありそうだね~よろしくねっ!」と後ろを振り返ってニコニコしている彼女と目が合った。

 あたしは何度目かの苦笑いをした。

「そうだね・・・よろしくね、芹沢さん」

「深雪でいいってばぁ~」

 深雪は少しだけほっぺを膨らませた。

「ぁ、ごめんね・・・"みゆきちゃん"、でいいかな?」

 そう言うと、「うん!それならいいよ~」と今度は左のほっぺにエクボを作る。

(百面相みたいな子だなぁ・・・まぁ、悪い子ではないかも知れないな)

 あたしはそんな風に思い直し、気持ちを新たに背筋をピンと伸ばした。

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