②バイト
入学式の翌日からの約1週間は、オリエンテーションだった。
講堂や体育館での各学部に分かれてのガイダンス、クラスでのガイダンスや履修科目登録の説明。そして、学内の諸施設の利用の仕方やサークル活動見学等々・・・授業が始まるまでの一週間、何をして過ごすのだろうと不思議に思っていたけれど、する事はてんこ盛りだった。
「ねぇ・・・咲ちゃんはバイト、してるの?」
そんなある日、お昼休みの学食でランチを食べている時に急に深雪が質問をしてきた。それはとても素朴な質問だったが、大学生にとって必要不可欠な問題だった。
「ううん。オリエンテーションの間に探せばいっか~なんて思ってたんだけど・・・こんなに忙しいとは思わなかった・・・だから、全然」
あたしは笑いながら、日替わり定食に付いているしば漬けを口に放り込んだ。
「よかったっ!」
すると、深雪は満面の笑みであたしをみつめてきた。
「なぁに?」
あたしは、口の中でしば漬けを噛み砕きながら深雪をみつめ返した。
「あたしね、学校の近くの百均でバイトしようかと思ってるの!」
「いいんじゃない?深雪ちゃん、笑顔が素敵だしハキハキしてるし・・・合ってると思うよ?」
あたしは素直な感想を述べた。が、深雪はとんでもない事を言い出した。
「でね!あたし、そこで咲ちゃんと一緒にバイトしたいって思ってるんだ!」
「え?」
(百面相の深雪と学校で一緒に過ごすだけでも大変なのに・・・放課後まで?!)
あたしは硬直してしまった。
「一緒にバイトしようよ~楽しいと思うんだっ!」
「けど・・・二人募集してなきゃ、無理じゃない?」
「大丈夫!調査済みっ!」
深雪は左手でピースを作るとそれを自分の頬に当て、ニッコリ笑った。
「・・・百均かぁ・・・あたし、接客とか苦手だしなぁ・・・」
「え~・・・じゃあ、どんなバイトならいいの?」
「そうだなぁ・・・公文とか?」
「そっち?!」
深雪はヘンテコな顔をした。
「ダメだよ~公文なんて!恋の相手も探せないじゃん!」
「え?」
「かっ、れっ、しっ!・・・欲しくないのー?」
「欲しいっていうか・・・いる・・・よ?」
「え?!咲ちゃん、彼氏、いんの?!」
深雪はその大きな瞳を更に大きくして、間抜けのように口を半開きにした。化粧が濃いめなのも手伝って少しピエロのように見えた。
「うん・・・高二から付き合ってる」
「へぇ~・・・意外だな。咲ちゃんってもっと奥手なのかと思ってたわ~」
今度は何だかつまらなそうな顔をして、彼女は小皿のおしんこをお箸で突っついた。けれど、すぐに顔を上げると今度はキラキラした表情を向けてきた。
「だったら尚更!あたしの恋の応援してよ~。ねっ!一緒にしようよ、バイトっ!」
「・・・うん・・・そうねぇ・・・」
やんわりと断ろうとしたのに・・・その台詞をどう解釈したのか深雪には、あたしが肯定したと捉えられてしまった。
「そうこなきゃっ!帰り、早速百均で履歴書買おうよ~偵察がてらっ!」
「ぅ・・・うん」
その時のあたしはきっと、苦虫を噛み潰した様な
結局、深雪に押し切られる形で受けた面接で、一緒に採用決定。
あたしは、バイトまでも彼女と一緒に過ごす事になってしまった。
(悪い子じゃないんだけど・・・ね)
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