③シフト

 バイトに慣れるまではランダム勤務で、深雪とは被ったり被らなかったりのシフトだったけれど、やっと固定曜日のシフトになった。けれど、店長に渡されたシフト表を見た瞬間、あたしは目が点になってしまった。


「咲ちゃん、何曜日にシフト希望出すの?」

 採用が決まってから最初の登校日に、深雪に訊かれた。バイト先のシフトは固定曜日で組まれるらしい。あたし達は、平日の二日と土日のどちらかの週三の契約での採用だった。

「火木と・・・日曜、かな?」

「了解!」


 そんなやりとりをしたにも関わらず、あたしと深雪のシフトは一日も被ってなかった。あたしは希望通り「火木日」だったが、深雪は「月金土」になっていた。

 あたしはその夜、帰宅するとすぐに深雪に電話した。

何回かのコールで、深雪はやっと出てくれた。

「もしもし?・・・もしかして、寝てた?」

「ううん、起きてたよ。高校ん時の友達とチャットしてた」

「ぁ・・・ごめん」

「大丈夫、終わらせたから!・・・で、何?急用?」

「ャ・・・急ぎではないんだけどね。・・・今日、あたし出勤だったじゃない?」

「うん、お疲れー」

「で、今日、店長からシフト表を渡されたんだけど・・・あり得ない事になってたの」

「どうしたのー?希望通りなってなかったの?」

「あたしは希望通りだったけど・・・」

「・・・けど?」

「深雪ちゃんが『月金土』で組まれてるの」

「合ってるよ?」

「え?」

 あたしは耳を疑った。

「あたし、『月金土』で希望出したよ?」

 あたしは、シフト表を見た時よりも驚いて、一瞬言葉を失ってしまった。

「だって・・・一緒に入ると、休みを代わってもらいたい時、困るじゃん」

「一緒に・・・一緒にバイトしようって言ったのに・・・?」

「一緒の場所ところでバイトしてるじゃん?」

 元々あたしは、百均のバイトは乗り気ではなかった。だけど、深雪が「一緒にしよう」って言うから・・・つい押されてしまって、今に至っている。なのに、一日もシフトが被っていない。それはあたしの中では「一緒にバイトをする」ではない。

「・・・だったら」

 あたしは、震える声を絞り出した。

「・・・だったら・・・あたし、百均のバイトなんてするんじゃなかった・・・」

「どういう意味?」

「あたし、言ったよね?・・・接客は嫌だって。公文のバイトしたいって、言ったよね?」

「聞いたよ?」

 深雪は平然と答えた。

「あたしは・・・深雪ちゃんが『一緒にバイトしよう』・・・って言ったから・・・公文止めて・・・こっちにしたのに・・・」

 悔し涙が出てきそうで、あたしは頑張って奥歯を噛みしめながらそう言った。

「えー・・・今頃そんな事言われても、知らないよ~。てか、そんなに公文のバイトがよかったなら、ハッキリ断ればよかったじゃん」

 確かに、深雪の言う通りだった。ハッキリ断らなかったあたしが一番悪い、それは判っている。何も言えないでいると、深雪は更に信じられない台詞を口にした。

「じゃあ、店長に言えば?『やっぱり辞めます』って。今なら何の戦力もないから、辞めさせてくれるんじゃないのー?」


 深雪との電話を切った後、あたしは布団の中で悔し涙を流した。

(あり得ないあり得ないあり得ないっ!)

 けれど、涙を流すだけではどうにも気持ちが治まらなくて、あたしは紅美に電話をかけた。

 紅美なら解かってくれる。

 あたしの今の気持ち、紅美なら絶対に解かってくれる。

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