⑮音信不通の理由
もしも。
もしも怜也の方から謝ってきたなら許してあげてもいいかな、なんて思ってたのに・・・彼から連絡が入る事はなかった。
(怜也とは、もうこのまま自然消滅になっちゃうのかな・・・?)
瑛子ちゃんとの約束を三日後に控えた、木曜日。
バイトを終えて、駅で電車を待っている時にケータイをチェックすると、紅美からメッセージが届いてた。
紅美『咲子、時枝くんと別れるの?』
内容が唐突過ぎて、面喰ってしまった。
(どういう事?・・・
咲子『何の事?』
紅美『さっき、時枝くんから連絡あって』
咲子『え?』
(あたしに連絡のひとつも寄こさないで、あたしの友達に連絡するとは何事?!)
意味不明に怒りが込み上げてきた。
紅美『なんか、咲子に「もう会いたくないから、連絡して来ないで」って言われ
たって言うのよ』
咲子『意味が解からな過ぎるんだけど・・・』
紅美『それを
その真相をあたしに確かめる為に連絡してきたっぽいの』
咲子『知らない。そんな事、誰にも頼んでないし』
そう打って送信した瞬間、(瑛子ちゃんだ!)とピンときた。
(どこまであたしを陥れたら気が済むの?)
(目的は・・・何?)
紅美『じゃあ、そんな事は思ってないし、言ってないのね?』
咲子『ャ。怜也には腹は立ってるよ?腸は煮えくり
紅美『あたし、時枝くんにどう返せばいい?』
咲子『返事しなくていいよ。あたしがする。ありがと』
紅美『お願いだから、喧嘩はしないでね?
あたしは、二人を終わらせる為にあの話をしたんじゃないから』
咲子『それは、ごめん・・・わかんない』
あたしは正直に伝えた。
だって、本当に判らなかったから・・・。
まさか、瑛子ちゃんに会う前に自ら怜也に連絡する事になるとは思わなかった。
(人生は計画通りには行かないなぁ)、とフラットにそう思った。
あたしは、家に着いてから怜也に直接電話を掛けた。
何回目かのコールで、彼は出た。
「・・・咲?」
「今、紅美から聞いた」
「ぁ・・・ぅん」
「あたし、怜也に会いたくないなんて思ってないから」
「マジ?」
あたしは、そこで深呼吸をする。
「・・・瑛子ちゃんから聞いたの?」
「咲が頼んだんだろ?」
「あたし、そんな事、頼んでない」
「・・・意味わかんねぇんだけど・・・」
怜也は困惑している様子だった。
「一体、瑛子ちゃんからどこで何を聞いたの?」
詰問すると、怜也は徐に語り始めた。
「二週間くらい前、突然バイト先に来たんだよ、瑛子さん」
一緒に過ごしたあの楽しかった夜、瑛子ちゃんから怜也のバイト先を聞かれたのを思い出した。
「閉店間際に一人で来て、ビールと揚げ出し豆腐注文して・・・で、俺がそれ持ってった時、『咲ちゃんから伝言があるから、店終わったら少し話そう』って言われて」
「うん・・・で?」
「店終わって外に出たら、そこに瑛子さん居て。で、公園に移動したんだよ、そこがいいって言うから・・・居酒屋のちょっと先に、あるんだ、公園。そこで」
「・・・で?」
「で、ベンチ座って。でも、何も話してくれねぇから、俺の方から『咲からの伝言って、何すか?』って尋ねたんだよ。したら・・・『咲ちゃんが、怜也くんとはもう会いたくないから、連絡して来ないでって言ってるの』って言われたんだ」
あたしは、頭に血が上るってのを初めて体感した。息が荒くなる。
怜也は続けた。
「で、理由を訊いたら、『大学入ってから会えないし、つまんないからとか言ってた』って言われて、俺、びっくりした。大学入ってからずっとバタバタしてたし、確かに連絡も疎かにした。けど、他人を遣って咲がそんな事云うかな、って」
「・・・あたし、頼んでないよ?」
それだけ言うのが精一杯だった。
「けど、俺的には咲の従姉妹の瑛子さんが言うんだから、信じるしかねぇじゃん?」
「・・・うん」
「だけど、俺、やっぱどう考えてもこれで咲と終わりにするなんて無理だったからさぁ・・・で、前田に訊いたんだ」
怜也が嘘を言ってないって事は、声色で判った。
只・・・ただ、その流れと『珈琲屋』の出来事が上手く繋がらない。
「それは、解かった。とにかくあたしはそんな事思ってもないし、言ってない。けど、じゃあ、『珈琲屋』で瑛子ちゃんと会ってたのは、どうして?」
「え゛っ?!」
電話の向こうでフリーズしている怜也の姿が浮かぶ。
「もしかして・・・それは隠そうと、思ってた?」
あたしは、つい意地悪を言ってしまった。
「つか、明日、会えねぇ?」
「何?・・・急に」
「これ、会って話したい・・・電話だと、上手く話せる自信ねぇわ」
「明日は・・・授業は四限まであるけど、バイトは無い」
「俺、バイト休むわ。何時になるかわかんねぇけど、とにかく咲んち行くから。待ってて」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます