⑨久々のデート
「怜也ーっ!」
電車を降りて、駅構内を出た所にある噴水の前に立っている怜也の姿を見つけたあたしは、瑛子ちゃんをそっちのけで彼目掛けて小走りをした。
「おぅっ!」
あたしの声を聞いた怜也は、手元のケータイから目を離してあたしを見た。
「めっちゃ久々だねっ!」
「・・・わりぃ・・・」
怜也は申し訳なさそうに後頭部を掻いた。
「咲ちゃん、待ってよ~」
後ろから声がして、ハッとする。
(そうだ・・・瑛子ちゃんがいたんだった)
怜也をみつけてすっ飛んだ自分が、とても恥ずかしかった。
「瑛子ちゃん、ごめ~ん」
「・・・誰?!」
隣で怜也がぼそっと呟いた。
「あっ・・・従姉妹のね・・・」
「初めまして。従姉妹の
「あっ、はっ、初めまして・・・とっ、
「何でそんな緊張してんのぉー?」
いつもはだらしない怜也が直立不動で挨拶するのが可笑しくて、あたしは思わず吹き出してしまった。こんな動揺した怜也はあまり見た事がない。
「だ、だって・・・こんな大人のお姉様とお近付きになれる機会、滅多ないじゃん!」
確かに、瑛子ちゃんは社会人だし、四つ違えばかなり大人だ。
「うふふ。じゃあ、咲ちゃん、私はここで。昨日はとっても愉しかったわ。また近い内、会おうね」
「うんっ!あたしも楽しかった~!また連絡するねっ!」
瑛子ちゃんとは、ここで別れた。
「しっかし・・・よく似てんね」
「え?」
瑛子ちゃんと別れてすぐに、怜也が言った。
「咲と瑛子さん。めっちゃ似てたぞ?目元とか」
「あぁ・・・顔、はね。だけど、あたしは庶民的で、瑛子ちゃんはお嬢様って感じじゃない?」
「雰囲気はそうかもだけど・・・顔、めっちゃ似てんじゃん」
「まぁ、従姉妹だからね・・・ところで、今からどうするー?」
「とりま、映画観ようぜ!」
「え?・・・映画ぁ~?」
「そー!俺、めっちゃ観たいのあるんだよ~」
「なぁに?・・・今日のデート、映画がメイン?・・・って、まさか・・・アクションものじゃないよね?」
「え?そうだけど?」
「えーーーーーー」
あたしはふくれっ面で隣を歩く怜也を見上げた。
「それ言ったら、咲、来ねーじゃん」
怜也はあたしを見降ろした。
(それ言われても、来たけどね)
心で返事をしながら、あたしは怜也の指に自分の指を絡ませた。
「めっちゃつまんなかったぁー」
映画館を出た瞬間、あたしは文句を言った。
「俺はめっちゃつまったわぁ~」
怜也はヘラヘラと笑った。
「お礼に、パフェご馳走するしアンド愚痴も聞くしぃ~」
「え?」
「女って、環境変わるとすぐに愚痴るじゃん」
「『女』とか言ってるけど本当は『咲』って言いたいんでしょ!」
「ははは~正解っ!」
「もうっ!」
あたしは頬を膨らませながらも、内心ニヤニヤが止まらなかった。
フルーツパフェを突きながら深雪や紅美の事を愚痴るあたしに、難しい名前の珈琲を
「『フレネミー』って?」
話し終えたあたしに怜也が質問してきたので、驚いた。彼はちゃんと聞いていた。
「え・・・あ・・・何か、友達のフリをした敵の事みたい」
「どういう意味?」
「だから・・・表向きには友達関係。でも実は、相手を利用する為に近付くの。で、相手が自分より優位に立ったりすると陥れたりする人の事・・・みたい」
あたしは、昨日瑛子ちゃんに説明されたのを思い出しながら簡潔に説明した。
「そんなヤツ、いんの?!」
「瑛子ちゃんが言うには・・・いるっぽぃ」
「ま、『フレネミー』かどうかは知らねえけど・・・その、深雪ってヤツには気を付けろよ、マジで。因みに、
「解かってるって~」
「だからぁ・・・前田とは早く仲直り、しろよ?」
「ぅ・・・ぅん」
怜也の真綿の様な優しさに、あたしは思わず泣きそうになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます