㉑あたしのキモチ

「怜也から瑛子ちゃんの話を聞いた時は、本気で瑛子ちゃんにムカついた。深雪の事をフレネミーだなんて言っておいて・・・蓋を開ければ、優しい顔をした敵は瑛子ちゃんの方だった。ほんっとうに信じらんなかった。悪魔かと思ったわ。あたしにとって唯一の従姉妹なのに、今までほとんど関わった事なくて。だけど、その瑛子ちゃんとやっと仲良くなれて・・・」

「え?・・・咲と瑛子さんって・・・今まで関わりなかったの?!」

 三杯目の珈琲を飲んでいた怜也が、真顔で質問してきた。

「うん・・・そう。こないだのゴールデンウィークにうちに泊まりに来た時、初めて瑛子ちゃんと連絡先を交換、したの」

「マジかぁ~・・・ま、その時点で、俺的にはそれが一番不自然に感じるけどね」

 怜也の言う通り、冷静に考えれば、瑛子ちゃんには不自然な言動が沢山あった。

「だね。・・・で、やっと従姉妹らしい関係になれて、あたしはすっごく嬉しかった。姉妹きょうだいがいないから、本当に嬉しかったの」

「解かるよ」

「それなのに・・・なのに、あたしに内緒で怜也に会いに行ったり、怜也に信じられない嘘をついたり・・・そんな話をいきなり聞かされて・・・」

「・・・わりぃ」

「ャ、怜也を責めてるんじゃないから」

「解かってるけど・・・何となく」

 怜也は頭を掻いた。

「だけど、日曜日、瑛子ちゃんから聞いた事・・・瑛子ちゃんがずっとあたしを憎んでた話・・・それ知った時は、思考が全然追い付かなくて・・・」

「そりゃそうだろ。いきなりそんな話されて、『はい、そうですか』とは普通はならねぇって」

「うん・・・でも、一晩寝たら、その事実を受け入れられてる自分がいたの。そして、不思議なんだけど・・・あれ程にムカついてた瑛子ちゃんに同情してる自分も、いたんだ。・・・許せるかって言ったら、それはまた別の話になるんだけど」

「やるせねぇな・・・」

 怜也が呟いた。

 あたしは続けた。

「だけど、十八年間の瑛子ちゃんの苦しみを思ったら・・・あたしの怒りが、何だかちっぽけに思えてきたんだぁ・・・」

「まぁ・・・実際、俺と瑛子さんはワケだしな!」

 怜也が強調したのが、可笑しかった。

「うん・・・だね」

「おっ!やっと笑ったな?」

「ぇ?・・・」

 あたしが首をかしげると、彼は右手で頬杖をついてあたしをじっとみつめてきた。

「な、なぁに?」

「しっかし、マジそっくりだな・・・瑛子さんに」

 怜也は、少しイジワルな顔をした。

「もうっ!」

 あたしが膨れっ面をすると、今度は真面目な顔をして言った。

「だけど。俺が好きなのは・・・咲だけだから」

 瞬間、自分が茹蛸ゆでだこになるのがわかって、すっごくすごく恥ずかしかった。

 だけど、目の前の怜也も茹蛸になっていて、それがすっごくすごく愛おしかった。

(あたしが好きなのも・・・怜也だけだよ)

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