第30話 テーマパーク①

 中井から、クラブの休みの日に、大阪のテーマパークに遊びに行こうとメールが来た。前から興味があったのでOKの返事をすると、伊藤さんと平野さんも一緒に行くからと返事が来た。


 中井……伊藤さんを誘って行けば良いんじゃないのか? 平野さんや俺を誘わず、男なら本命に当たって砕けろと言ってやりたいが……まあ、US〇には行きたかったから言わないでおいてやろう。


 ◇◇

 夏休みだから、テーマパークのオープン時間が早いらしい。待ち合わせ時間が、学校に行くより早いのがキツイな。


「じゃぁ、サーマ、行って来る」

「蓮様、お気を付けて」


 今日はアスタが護衛してくれるそうだ。一緒にマンションから出て、駅近くに来るとアスタは姿を消した。待ち合わせの10分前に来たのに、俺が1番最後か……。


「みんな、お待たせ。行こうか」


「「月城君、おはよ~!」うん、行こう~!」

「月城、おはよ」


 高校生活を満喫しているよな。

電車で大阪まで行き、乗り換えてUS〇に到着した。


 人気のアトラクションは2~3時間待ちで、全部は回れそうにないから、女子が希望するアトラクションを順番に回った。魔法の国のエリアにジェットコースターとか……3Dバトルのお姉さんが印象的だった。


 夜のパレードも最後まで見たので、帰りの退場ゲートに行くまでに凄い人混みだ。駅に着くまで時間が掛かりそうだな。


「平っち、パレード良かったね~」

「ね~。でも、帰り凄く混んでいるね……。葉月、駅に辿り着くまで時間掛かりそうだよ」


 パレードの途中で抜けて帰れば、もう少しマシだったかもな。


「だね……。ねえ、平っち、アトラクション全部回れなかったから、また来ようね~。ふふふ」

「うん。葉月、また来ようね。ふふ」


 ほら中井、ここでアプローチした方が良いんじゃないか?


「月城、楽しかったな。見られなかったショウやアトラクションがあるから、又、来たいな。僕もバイトしようかな……月城、又、来ような!」

「中井……そうだな」


 言う相手が違うだろう。



 US〇のゲートを出た正面のオブジェの周りに、楽器を奏でている魔物達がいる。魔物に仮装したスタッフか? 手が込んでいるな……いや、魔力を感じるから本物だ。何でこんな所で演奏しているんだ? みんなスマホで写真を撮っているが……。


『あっ! お前……王の隣にいたヤツだな!』


 大声の主を探すと、地球儀のオブジェのてっぺんに誰かが立っていて、俺を指差している。どこかで見たことがある……波打つブルネットの髪で、大きな水色の目の可愛い女の子……に見える男! 親父のことを「王」と呼ぶパイモン!? 何でここにいるんだ?


 嘘だろう……ついこの前、送り返されたのに、もう冥界から抜け出したのか? 消されるぞ。あぁ、浄化するように言われているのは俺だった。パイモンを無視して通り過ぎようとしたら、俺の前に立ち塞がった。


『待てよ!』


 同時にアスタが、殺気を放って俺の目の前に現れた。


「パイモン、近寄るな」


『お前、アスタロトか!』


 その名前は、アスタが昔呼ばれていた名前だ。2人が戦闘態勢に入った。楽器を持った軍楽隊も近寄って来て、周りの人達もチラチラ見る。美女と見た目美少女が、今にも掴み合いになりそうな雰囲気で、「おお、修羅場か?」と、野次馬の声が聞こえる……マズイな。


「アスタ、ここでは止めてくれ」


 俺の言葉を聞いて、アスタが、殺気を放つのを止めて俺の側に来てくれた。それを見たパイモンがキョトンとしている。


「ん? 月城の知り合いか?」

「ああ、中井、何かややこしくなりそうだ……悪い。伊藤さんと平井さんを連れて、先に帰ってもらって良いか?」

「良いけど……大丈夫か?」

「ああ、大丈夫だ」


 パイモンは弱いと言っても悪魔だしな。何をするか分からない。


「月城君、その人達は……知り合い?」

「月城君……その2人は彼女?」


 伊藤さんと平野さんが心配そうに……いや、興味津々に声を掛けてくる。


「彼女じゃないんだが、話が長くなりそうだから、悪いけど先に帰ってもらって良いかな? 中井、頼む」

「ああ、分かった」

「そっか~。月城君、又ね」

「月城君……気を付けてね」


 伊藤さんと平野さんの「月城君、モテるんだ~」「ね~」と言う声が聞こえるが、残念ながら違うんだ。中井が、急いで伊藤さん達を連れて駅へ向かってくれたので気が楽になった。取りあえず、ひと気のない埠頭にでも移動しようか。


「アスタ、ここから離れるよ。お前、パイモンだな? 話があるなら付いて来い」

「畏まりました。蓮様」


『おい! 待てよ』


 人目に留まらないように素早く人をかき分けて移動し、海側にあるオフィシャルホテルへ向かう。その陰から飛んで、誰もいない埠頭を見つけて降りた。最近、翼を出さなくても飛べるようになったんだ。今は透明マントを練習している。


「アスタ、取りあえず話を聞こうと思う」

「蓮様……畏まりました」


 パイモンと軍楽隊が追いかけて来た……画像で見た時より、軍楽隊の人数が減っている。パイモンの後ろに整列しているが10体しかいない。


『お前、逃げるな!』


 付いて来られる速さで移動したから、怒鳴って言わなくても良いと思うが。


「パイモン、逃げたんじゃない。関係ない人を巻き込むのは良くないだろう?」


『! そうだな……』


 俺の言葉に目を大きくして、声のトーンが下がって行く。こいつ、感情が豊かだな。


「で、俺に何か用か?」


『お前、王の隣にいたヤツだろ?』


 王って、親父のことだったな。


「良くわかったな。認識阻害のアイテムを付けているのに、何故、分かった?」


『フフン! ボクは、1回見たヤツの顔は忘れない。認識阻害を掛けていても、その顔で覚えているんだ!』


 記憶力が良いってことか?


「そうか。それで、俺に何か用か?」


『えっ、別に……それだけだ』


 なっ、親父の隣にいたのが俺だと確認する為だけに……声を掛けたのか?


『後、弱そうなお前が、どうして王の近くにいたのかも聞きたかった』


「弱そうで悪かったな。お前……王から冥界から抜け出すなと言われたんじゃないのか? 抜け出したことがバレたらヤバイだろう? 何故、俺に声を掛けたんだ……俺は、お前を見なかったことにするから冥界に帰れ」


『何でいつも……冥界から抜け出したことがバレるんだ?』


「ああ、脱走したら冥界から連絡が来るんだ。お前、帰らないと浄化されて消されるぞ。脱走者リストに名前が載る前に帰れ」


『えっ、冥界から連絡が来るのか! フン、浄化されてもボクは消えないよ』


 穢れは少なそうだから消えないと思うが、魔力は弱くなるだろう。


「蓮様、さっさと浄化されたらいかがですか?」


 サーマがいつの間にか現れて、俺の一歩前に出てパイモンを睨んでいる。アスタが知らせたのか?


「サーマ……パイモンは、まだリストに載っていないだろう?」


 リストに載っていない魔物を狩るのは抵抗がある。その内、載るのが決定していても……こいつは悪いことをしていないからな。


『あっ! お前はサマエル……何でこんな強い奴らがいるんだ』


 お前が俺に声を掛けたからだろう……あぁ、俺が親父の息子だと知らないのか。その名前も昔の名前で、今はサーマと呼ばれている。何か、可哀そうなヤツだな。本当に悪魔か?


『お前達はどうして狩られないんだ! ボクばっかり……ズルい!』


「主と契約しているからですよ。フフ」

「ええ、ちゃんと召喚されて契約したからよ。フフ」


『クソォ……』


 パイモンが、泣きそうな顔をしている。悪魔が泣くのか?


「パイモン、どうして冥界を抜け出すんだ?」


『そんなの、こっちの世界に王がいるからに決まっている! ご飯も美味しくて、楽しいんだ!』


 ああ、こいつ子どもだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る