第6話
陰陽師の狩りを見てから数日後の夜、リビングでTVを見ているサーマ達の横で、スマホゲームをしていたら魔力の気配がした。
「蓮様、近いですね」
「蓮様、夜の散歩に行きますか?」
「いや、放置で良いよ」
ついこの前、鬼が出たばかりなのにもう別の魔物がウロウロしているのか……大都市だと動き出す時間も早いな。
「はい。あっ、気配が消えましたね」
「もう狩られたのか? あぁ、封印の近くに現れたのなら、陰陽師が狩ったのかもな」
俺も、爺ちゃん家の周りに出た魔物は狩る。爺ちゃんはそこそこ強いが、婆ちゃんが怪我をするかも知れないからな。だが、街中で見かけた魔物――この世界で産まれた魔物は、悪さをしていなければ狩らないんだ。
さあ、そろそろ風呂に入ろうか。
◇◇
翌朝、TVのニュースで、近くの公園で傷害事件が起きたと報道されていた。犯人は逃走中なので、住民の皆さんは気を付けるようにとニュースキャスターが注意を呼び掛けている。
「蓮様、昨晩の魔物かも知れませんね」
「てっきり、狩られたと思ったんだが……」
「蓮様、人間に化けて街中に紛れたら分かりませんからね」
「ああ、そうか……」
俺達みたいに魔力を隠して、街中で暮らしている魔物がいてもおかしくないな。
◇
学校に行くと、朝から校内放送が流れた。
『昨日、近くで傷害事件が起きました。今日はクラブ活動を控えて速やかに帰宅して下さい』
「月城君、朝のニュースを見たかい?」
「ああ、見たよ。犯人が逃げたって言ってたな。中井君、この校内放送はその事件のせいだろう?」
「そうだと思う。参ったな~、バスケの練習が出来ないじゃないか。もうすぐ、他校との練習試合があるのに……最近、多いよな」
中井君が残念そうに言うから、1年の中井君も試合に出るのかと聞いてみた。
「月城君、そうなんだよ! 練習試合だから学年ごとに試合をするんだって、僕も1年の試合に出られるんだけど、練習出来ないのは最悪だ……」
中井君はチームワークが上手くいかないんだと言う……マジメだ。練習不足でも仕方ないじゃないかと話していたら、チャイムの音と共に歴史の先生が入って来た。陰陽師の狩り場で見た……えっと、渡辺先生だったかな。見るからに機嫌が悪そうだ。
「おはよう。今日はこれから小テストを行う。教科書とノートをしまえ」
「「「ええっ――!」」マジかよ~!」「渡辺先生、「ひど~い!」」
朝一番からテスト……まだ授業が始まって2週間も経っていないのに、しかも歴史でやるか? まさか、昨夜、逃げた魔物を探し回って、今日の授業の準備が出来ていないとか……。
「なあ、中井君……中学の時、もしかして、校内放送があった日はテストが多かったとかある?」
「う~ん? 校内放送があった日かは覚えていないけど……数学は、いつも小テストばっかりだったな。後は理科も多かったかな」
うわ~、その教師は絶対に陰陽師だ。最悪だ……こんな所に影響が出るのか。逃がすならコンサルタント会社に協力要請しろよ。まあ、依頼料は高額だけどな。
◇
「葉月――!」
昼休み、伊藤葉月を呼ぶ声が聞こえた。教室の後ろの出入口を見ると、あぁ、この前の悪鬼狩りの時にいた陰陽師だ。上級生が顔を出しているから、みんなの視線が集まる。
「ん?
伊藤さんが戸口へ向かった。聞き耳を立てると、話の内容が聞こえて来た。
「葉月、連絡は行っていると思うけど、おじさんからの返事がまだなんだ。おじさんに週末の総会に来るように伝えて欲しい。人手が足りないんだよ」
「あ~、お父さんは今出張中だから無理だよ。私が行くよ」
「葉月が? 分かった。本家に、そう伝えておく」
中井君に「あの人は上級生だよね?」と聞くと、彼は3年生の
「伊藤の家は由緒ある家の分家らしくて、何かあると集まりに参加しないといけないんだって」
「へえ~、お盆や正月じゃないのに集まりがあるんだ」
「うん。普通は、その時期に集まるだろう? 伊藤ん家は違うらしい」
ふ~ん、伊藤さんは陰陽師の縁者でも直接は関係ないって聞いたが、集まりには参加しているのか。
3年の陰陽師が帰った後、伊藤さんは「もう~、面倒臭いな……」と言いながら、自分の席に戻ると周りの女子からあの爽やかなイケメンは誰だと聞かれていた。
確かに、真面目そうな感じのイケメンだ。
◇
その夜、又、魔物の気配が数か所でしたと思ったら直ぐに消えた。サーマ達と顔を見合わせる。
「蓮様、変ですね」
「ああ、魔物の数が昨日より増えたと思ったら直ぐに消えるし……」
アスタはまるで遊ばれているようだと言う。
「アスタ、どうしてそう思う?」
「蓮様、ほぼ同時に複数の魔物が魔力を消すってことは、他に何か目的があって連携しているんだと思います」
「蓮様、私もアスタの意見に同意します。きっと、ここから魔力を感知出来ない他の場所でも、同じようにうろついていると思われます」
なるほどね。祓い屋や陰陽師の目を誤魔化す為の陽動作戦か。だとすると、本当の狙いは何だろうな。あぁ、陰陽師が動いているなら、魔物はあちこちの封印場所に現れて……その中の1つが本命か。
「蓮様、封印の破壊が狙いなら、この辺りだと二条城の封印かも知れませんしね」
「サーマ、私なら龍安寺の封印を解いて龍を暴れさせている間に、他の封印を壊して回るわ」
アスタが何やら怖いことを言っている。龍を封印している所もあるのか。
「アスタ、どうして封印を壊して回るんだ?」
「私なら、どの封印を狙っているか分からないように、先ず龍を開放して、そちらに陰陽師たちを引き付けます。そして、思いつく封印を順番に壊していきます。フフ、勿論、本命の封印も途中で壊しますよ」
「アスタ、それなら先に熊野か二条城だろう」
2人が、どこの封印が先だろうと言い合うのを聞くと、出るわ出るわ……京都だけで何か所あるんだ。
◇◇
それから数日、魔物がうろつく日が続いたある朝、依頼のメールが届いた。その依頼内容は……、
『京都・宇治の寺院に現れる鬼・茨木童子の狩り依頼』
ん、聞いたことがある名前だな。京都のあちこちの神社や寺に鬼が現れ、その中でも凶悪な鬼・茨木童子が宇治の寺院に現れるようになったと書いてある。
茨木童子は、宇治の寺院で封印されている物を狙っているようで、今の陰陽師では狩るどころか、追い払うことしか出来ない。それが最近、毎晩のように現れるので陰陽師にも怪我人が出て人手が足りず、追い払うのも難しくなったと書いてある。
追い払うって……丑三つ時、もしくは夜が明けるまで足止めしているのか? そういえば、体育の先生が怪我をしたとかで休んでいたな。
「蓮様、依頼ですか?」
「ああ、サーマ、今回の依頼は陰陽師からで、獲物は宇治の寺院に出る茨木童子だ。有名な鬼だからリスト組だと思ったんだが、残念ながらリストには載っていなかったよ」
だが、このクラスの依頼料、片手はいくだろうな。依頼の内容をサーマとアスタにも送る。
「蓮様、茨木童子は、その昔、狩られず逃げおおせたと言われています」
「へえ~、この鬼はずっと狩られずにいたんだ」
スマホで何かを調べていたアスタの手が止まり、こっちを見た。
「蓮様、連日の魔物の動きは茨木童子の指示かも知れませんね。陰陽師を分散させて、本当の狙いは宇治に収められたと言われている酒吞童子の首級」
「酒吞童子……これは又、有名な鬼の名前だな」
アスタが調べた情報では、茨木童子は酒吞童子の家来らしい。その寺院に酒吞童子の首級があるなら取り戻そうとするだろうな。何百年もの間、奪い返す時期を
「サーマ、アスタ、依頼を受けるよ。獲物は茨木童子。毎晩のように現れるって書いてあるから、今夜から宇治に向かう」
「「はい、蓮様」」
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