第28話 将軍塚②

 王城鎮護の守護神とする為に、人の魂を縛り付けるとは酷いことをする。


「俺は、呪縛の解き方を親父に聞いてみる」

「そうですね。森さん、俺もサーマとアスタに聞いてみます。その前に、彼が自由になりたいか確認しないと」

「ああ、そうだな」


 彼は自由になることを望むのか、それともこのまま王城鎮護の守護神であることを望むのか――森さんが坂上田村麻呂の霊に聞くと、


『私が守護神など、おこがましい。長い間、ここで変わりゆく京の街を見ていたが、昔の面影は失われ、最早もはや、この世に留まりたいとは思わぬ。ああ、自由になりたい……誰ぞ、成仏させてくれる僧侶を知らぬか?』


 昨日も、『この世に未練などない』と言っていたから、呪縛が解けたらそのまま成仏出来そうだ。必要なら俺の浄化で手助けするが、先に呪縛を解く方法を調べないとな。


 森さんが、坂上田村麻呂の霊に説明をする。


「将軍、先ずは呪縛を解くことが先決なので、俺達は一度戻って、呪縛解除の方法を調べて来ます。上手く呪縛の解除が出来たら、浄化が出来る僧侶をご紹介します」


『そうか……。初めて会ったお主達に、このようなことを頼むのは心苦しいが、よろしく頼む』


 甲冑の霊と別れ、森さんと歩いて山を下りて行った。森さんが言うには、学校の図書館に陰陽師や祓い屋の本があるらしく、明日、図書館で待ち合わせをすることにした。夏休みの間、学校の図書館は開放されているそうだ。


 森さんは、午前中はバスケ部の練習があるそうで、午後、図書館で待ち合わせをすることにした。タフだな……俺なら、明日の朝起きられないと思う。


 ◇◇

 翌日、昼前に起きて、昨日の将軍塚での出来事をサーマとアスタに話した。


「昨晩、見ていましたが、蓮様の言う通り、あの霊は呪縛されているようでしたね。蓮様、お昼の用意をしますね」

「ああ、アスタ、頼むよ」


 具沢山の冷麺が出て来た。おお、ローストビーフが乗っている……美味そうだ。食べながら、2人に呪縛の解き方を聞くと、


「蓮様、呪縛は呪いの一種ですから浄化すれば解けます」

「サーマの言う通りです。呪縛を解いてから浄化するとか、回りくどいことをしなくても、蓮様の霊力なら一気に呪縛ごと壊して浄化させることが出来ますよ。この前のプラージの時のように……あれは見事でしたね。フフフ」

「本当に、アレは見事でした。フフ」

「そうか……」


 俺が浄化を使えることを、森さんに知られても問題ないか聞くと、


「蓮様の力を誰に知られようと問題ありません」

「ええ、問題があればサーマと私が対処しますから、蓮様が気にすることはないですよ。フフ」


 う~ん、頼りになるが、2人が対処するって言うのが怖い。俺は人間じゃないが、爺ちゃんと婆ちゃんに人間として育てられたからな……2人とは、感覚が少し違うんだ。


 ◇

 午後、学校の図書館に行くと、もう森さんが机に座って本を読んでいた。


「森さん、早いですね」

「おう、月城君、始めているぞ」


 机を見ると、数冊の本が積んであった。森さんは、昨日、家に帰ってから父親に呪縛について聞いたら、陰陽師が魔物を封印する時に使うと言われたそうだ。陰陽師は、魔物を呪縛して動けなくしてから封印するらしい。


「月城君も来たか」


 声を掛けられ振り向くと、加茂さんが数冊の本を持って立っていた。


「えっ、加茂さん? こんにちは」


「陰陽師がやったことだから、加茂にも手伝わせることにしたんだ」


 森さんは、今朝、加茂さんに連絡して、昨日のことを話したそうだ。


「その話が本当なら……魔物でもない魂の呪縛は許せない。例え陰陽師がやったことでもね。僕達には知らされていないだけで、本家は把握していると思うよ。陰陽師は秘密主義だからね」


 加茂さんは、まだ封印の手伝いをしたことはないが、封印する時に呪縛を使うことは知っているそうだ。ここにある、持ち出し禁止の陰陽師限定の本を読むことが出来るから手伝ってくれるそうだ。


「じゃあ、手分けして、呪縛の解除の仕方を探そうぜ! 月城君はこの本を調べてくれ」

「はい……」


 陰陽師の封印について書かれている本を渡された。2人とも真剣で……あっ、俺が浄化出来ると言いそびれたな。


 術や封印について書かれている本を調べると、やはり、呪縛を使うと書いてあった。呪縛は呪いの1種であると書かれていたが、その解除の方法までは記されていなかった。


「何故、解除の方法を書いていないんだ……口伝か? なあ、加茂。呪縛が呪いなら、浄化すれば良いんじゃないか?」

「俺もそう思います。ただ、呪いが解かれると掛けた人に呪いが返るんですよね?」

「月城君、将軍塚は千年以上前に作られたんだ。呪縛を掛けた陰陽師は、とっくに死んでいるだろう。加茂、その場合どうなるんだ?」

「そうだな……」


 加茂さんは、過去に封印を破られたことはあるが、その時、誰かに呪いが返って来たという話は聞いたことがないそうだ。


「じゃあ問題ないな。加茂が浄化の祝詞のりとを唱えれば良いんじゃないか? 俺が唱えても効果なさそうだしな」


 強い霊力を持つ者が唱える祝詞のりとの方が、効果が大きいのは確かだ。


「森、霊力が無くても多少の効果はあるんだ。だから、僕一人で祝詞を唱えるより、3人で唱える方が効果は高くなる」

「そうなのか! じゃあ、俺と月城君も一緒に祝詞を唱えよう」

「分かりました」


 3人で唱えるなら、俺の浄化の力を祝詞に乗せれば良いな。


「じゃあ、今から3つの祝詞を覚えてもらう。今夜、呪縛を解きに行こう」

「分かった。今から祝詞を紙に書くよ。加茂、どの祝詞を唱えるんだ?」


 森さんが、祝詞が書かれている本を持って来て紙に書き始めた。


「加茂さん、俺も紙に書きます」

「……お前達、覚えろ」


 加茂さん、『魔物でもない魂の呪縛は許せない』と、言うのは同意しますが、今から夜までに祝詞を3種類も覚えられるわけがない……無茶を言わないで下さい。

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