第25話 8月パーティー①
8月が来た。
毎年、俺のバースデーパーティーが東京のホテルであるんだ。このパーティーには、月城グループの成績優秀者の上位30名が招待される。この成績は、静粛対象を狩って得た累計ポイントで、下位2~3名の入れ替わりはあるがほとんど同じメンバーなんだ。
今年も、9時過ぎの新幹線で東京へ向った。昼の12時スタートだから間に合うんだ。品川駅で降りていつものホテルへ――勿論、俺はペンダントを付けたままの参加。
「蓮様、お待ちしておりました。こちらへ」
「ああ、フェレス、ありがとう」
今年も、親父の秘書のフェレスがホテルのエントランスで出迎えてくれる。フェレスは、成績優秀者――不動の第1位だ。黒い髪を撫でつけ、赤い瞳の執事みたいな出で立ちで、年齢はサーマと同じ20代後半に見える。
広いパーティー会場に入ると、正面にデカデカと『蓮様のバースデーパーティー』の文字が見える。あぁ、今年も垂れ幕を掛けているんだな……アレ、外したらダメかな。
会場の前には生演奏の楽団がいて、俺の席は、その正面の真ん中に1つある円卓テーブルに親父と母さんの3人で座るんだ。
その後ろに並んでいる10台のテーブルに、ランキングの上位の社員から3名ずつ座る。親父に1番近い真ん中のテーブルには、1位のフェレスと2位のサーマと3位のエネ。その右隣のテーブルに、4位に上がったアスタがいる。あの満月のヴァンパイアのポイントが効いたんだろうな。
あっ、楽団の演奏が始まった。後ろの扉から、光沢のある濃紺のスリーピーススーツ姿の親父が、母さんをエスコートして会場に入って来た。その瞬間、会場の空気が張り詰める。
親父は30代に見えるかな。190cmはある長身に筋肉質の体、真っ黒い髪を後ろに撫でつけ、オールバックにしている。目力のある金色の目をしていて、魔力を隠していても強さが
親父に勝てる気がしないな。
母さんを見ると、ペンダントを付けているから顔は別人だが、どこにでもいそうなアラサーのキャリアウーマン風で、黒地に金糸のツイードのスーツを着ている。足元の黒いヒールまでキラキラしているな。
そして、母さんに視線を送った社員を、親父が
「蓮~!」
母さんが、座っている俺の頭に抱き付いて来た。グフッ、俺の誕生日だ……我慢、我慢。
「蓮、元気そうだな」
「ああ、親父、元気だよ」
6月末に会ったじゃないか。母さんが来たら、夜には親父が母さんを追いかけて来る。まあ、2人は相変わらず仲が良さそうで良いことだが……母さん、そろそろ離してくれ。
「ねえ、蓮。いつまでこっちに居られるの?」
「夏休みだから、2~3日いるつもりだ」
このホテルと隣接するホテルのスイートルームとジュニアスイートの部屋は、パーティーの参加者用に抑えてある。トップ10位までの成績優秀者は、最大1週間滞在出来るんだ。
「嬉しい~。蓮、どこに遊びに行くの? 母さんも休みを取って一緒に行くわ!」
この会話、毎年しているな。
「ああ、母さん、座って……何処に行くか話そうよ」
「そうね! どこが良いかしら~。ふふ」
母さんを座らせて、何処に行きたいか考えてもらう。俺は、東京の観光地は一通り回っているから特に行きたい所はなくて、近頃は母さんの行きたい所に俺が付いて行く感じだ。
「蓮、京都は慣れたか?」
「ああ、だいぶ慣れたよ……親父、京都は三重と違って魔物の数が多いし、同業者も多いんだ」
「京都は陰陽師が多いからな。何かあったら言うんだぞ」
「ああ、ありがとう」
俺達の様子を見ていたのか、司会者がこっちに頭を下げてから前に出て話し出した。
『月城様がお見えになりましたので、只今より蓮様のバースデーパーティーを始めさせて頂きます!』
俺のバースデーパーティーって、マイクで言わないで欲しいな。成績優秀者の慰労会とかにしてくれないか?
『蓮様、お誕生日おめでとうございます! 今年もこの日を迎えられたことを嬉しく思います』
グッ、まだ言うのか……「今年も」って、昨年と同じ司会者なのか? 司会者を睨まず、殺気も飛ばさない。数年前から心を無にすることを覚えたんだが、顔が勝手に引きつる時がある……ペンダントが、引きつる顔を誤魔化してくれているはずだ。
『本日、御招待された月城グループの皆様、おめでとうございます! 今日、明日の2日間、ゆっくりお過ごし下さい』
司会者のパーティー開始の挨拶と共に、前にいる楽団がゆっくりしたクラッシックの曲を奏で始める。そのタイミングで、ホテルのシェフが腕を振るった料理が運び込まれて来た。
フレンチのフルコースなんだが、それだけでは足りない社員が多いので、ブッフェスタイルで壁際に料理が並んでいる。シェフが焼くステーキコーナーまであって、俺も毎年サーロインのレアを食べているが、焼き加減が絶妙なんだ。
今年も、ざっと周りを見たが、成績優秀者の30名の中に人間はいない。あっ、『夜叉』の八神さんがいた。目が合ったので軽く頭を下げた。
そして、デザートが運ばれると、今年の成績優秀者30名の名前が発表される。30位から発表されるんだが、呼ばれた人は、その席で立って親父に頭を下げている。
新しく30位内に名前を連ねた社員は、希望を1つ言えるんだ。昇給・昇格・昇進、グループ内の別の会社に異動したいとか……
あっ、4位でアスタの名前が呼ばれたので、アスタを見て『おめでとう』と口パクした。アスタが嬉しそうに微笑む。フフ、良かったな。
ここで、俺が面識のある人は限られている。今年も1位のフェレス――さっき、出迎えてくれた親父の秘書だ。2位がサーマ、3位がエネで4位がアスタ。5位にコンサルタント会社トップのアジルさんと、15位の八神さんぐらいだ。
後は、順位の発表の時に所属と名前を聞く程度。毎年同じ顔触れだから顔は何となく覚えるが、話しをしたことはない。サーマとアスタが「話す必要はありません」と言うし……まあ、ただのCEOの息子だし、特に話すことはない。
今年もアジルさんが挨拶に来てくれた。サーマと同じくらい背が高くて、細マッチョの体形だ。サラサラの金髪で碧い瞳の彫りの深い顔立ちをしているコンサルタント会社のトップだ。魔法は風と水魔法が得意らしい。
「月城様、咲希様、そして、蓮様~、誕生日おめでとうございます」
「アジルさん……ありがとうございます」
「ああ、アジル残念だったな」
「ええ、僕がアスタに抜かれるとは思いませんでしたよ~。サーマのポイントもかなり増えていますし、蓮様、どういうことでしょうかねぇ?」
軽い口調で、アジルさんがおどけて言う。ああ、今回、アスタが4位に上がったから、入れ替えでアジルさんが5位に下がったのか。
「アジルさん、アスタが頑張ったんですよ。それと偶然、知り合いから粛清対象の情報を得て、それが運良くヴェントレー系だったんです」
あれは本当にラッキーだったな。
「なっ、羨ましい~!」
アジルさん、6位から10位までは全て専属の『狩り人』が占めているから、コンサルタント会社の体面は保っていると思いますよ。ん、専属の? あれ……上位の4名は、秘書や護衛の仕事をしながら上位を維持しているのか……みんな凄いな!
明日は、俺は参加しないが、月城グループ内での情報交換の場になっている。成績優秀者の30名の中には、各グループ会社のトップが顔を揃えているからな。ここで情報交換された話の一部は、社内用に公表されるんだ。
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