第44話 ヴェントレー家⑫終話

「主、お呼びですか? フフ」


 親父の前に現れたフェレスは、呼び出されたのが嬉しかったのか、微笑みながら軽く頭を下げた。


「ああ、フェレス、ここは公園だったのだ。悪いが元に戻してくれ」


 フェレスは、親父の言葉と同時に視線を追いかけ振り向いた。そこには、一面に広がる黒焦げの……公園だったはずの……えぐれた跡地が見えた。即座にフェレスの顔から笑みが消えた。


「主……」

「フェレスよ、イーサン・ヴェントレーが蓮を襲った」

「なっ! イーサン・ヴェントレーが……主、畏まりました。直ぐに改修工事を始めます」


 フェレスが珍しく眉間に皺を寄せて、直ぐにどこかに電話を掛け始めた。フェレスのことだから、イーサン・ヴェントレーを逃がしたのは自分にも責任があると思っているのかもな。


 電話をしながら地面に魔法陣を描くと、直ぐに後処理班が現れ、公園だった所に工事現場で見るような背の高いフェンスを設置し始めた。慣れているのか? 仕事が早いな。


 親父は、サーマとアスタに報告書を今日中に送れと言い、フェレスを連れて帰って行った。2人は「「主、畏まりました」」と言って、90度に頭を下げて親父を見送っていたが、何故か、パイモンも一緒に並んで頭を下げている……。


 頭を上げたサーマは、いつものクールな顔に戻っていた。しかし、サーマが取り乱すのを始めて見たな。


「サーマ、話は帰ってからにしようか」

「はい。蓮様、取り乱して失礼しました。蓮様がヴェントレー家の言いなりになっているのかと思うと、感情が押さえられず……」

「サーマ、心配かけて悪かった」


 あぁ、アスタから、俺が命令された状態だって連絡が来たのか。


「蓮様……サーマも私も、蓮様が小さな頃からそばにいるので、私達にとって蓮様は、自分よりも大切な存在なんです」


 『大事』ではなく『大切』なんだ……。


「そうか……ありがとう」


 俺は、サーマとアスタを家族だと思っているが、2人も俺を家族だと思ってくれていたら嬉しい……恥ずかしいが。


「そうだ、パイモン。お礼にジュースとお菓子を出すから一緒に来ないか? サーマも話を聞きたいだろうし」

「はい、私もパイモンから話が聞きたいです」


『えっ、蓮……蓮の家に行っても良いのか?』


 大人しくしていたパイモンの顔が固まって、段々目が大きく見開き笑顔がこぼれた。


「ああ。パイモン、仲間と……みんなで来てくれ」

「ええ、パイモン、美味しいケーキを出すわ。あなたのお陰でイーサン・ヴェントレーを逃がさずに済んだもの」


 アスタも微笑んでパイモンを誘っている。


『やった~! ケーキだって、お前達、蓮の家に行ったら行儀よくするんだぞ!』


 パイモンは嬉しそうに小鳥を肩に乗せ、仲間の子どもと黒猫達に言い聞かせている。フフ。


 ◇

 マンションに戻って、アスタが出してくれたケーキを食べながら、サーマにことの成り行きを話した。


「お前が、蓮様を助けに現れてイーサン・ヴェントレーを結界内に閉じ込めたのか……。パイモン、ありがとう」


 アスタは結界を張れないんだ――正確に言うと、牛やゾウが通れる網のような結界は張れる……誰にでも向き不向きはあるからな。だから、パイモンが来なかったらイーサン・ヴェントレーに逃げられただろう。


『サマエル、蓮はボクの友達だから助けるのは当たり前だ!』モグモグ……。


 パイモンは、口いっぱいにケーキを入れて嬉しそうに話す。アスタが、好きなだけ食べてねと、更に大皿でケーキを並べて出している。それを見たパイモンの目がキラキラと……フフ。


「ああ、パイモン、私のことはサーマと言え」


『おお? サマエルはサーマと呼ばれているのか……アスタロトはアスタだし……蓮、ボクも名前を変えた方が良いのか?』


「パイモンは、パイモンだろう? 今更名前を変えたら、森さんと加茂さんが困るんじゃないか?」


『そうか、そうだな! 名前を変えたら、森と加茂が困るな! ハハ』


 夜はみんなで焼き肉を食べに行った。サーマがおごると言ったが、俺がパイモンにご馳走したかったんだ。軽くあしらっていたのに、友達だと言って助けに来てくれた。森さんの言う通り良いヤツだ。


 サーマが、店に着くなり店長に声を掛け、猫と小鳥が同伴だからとチップを渡していた。いつも以上に愛想よく接客してくれる……サーマ、いくら渡したんだ? 


『蓮、これが焼き肉か~、美味いな!』

「ああ、焼き肉は美味しいだろう。パイモン、沢山食べろ。お前達も、おかわりあるからな」


 パイモンの仲間達もがっついて食べている。店の店員が、焼き肉をつついている小鳥を見て首を傾げている。フフ。


「パイモン、助けに来てくれてありがとな」

『えっ! 蓮、照れるな~。ヘヘヘ』


 パイモンは、いつも朝来るんだ。今日はどうして日が暮れてからだったのか聞いたら、


『本当は、明日来ようと思っていたんだけど……ん~、変な感じがして、蓮の所に今すぐ行かないとダメだって思ったんだ!』

「そうか……パイモン、ありがとう」


 パイモンには未来が見えるのか? 胸騒ぎってやつか?


『蓮、さっきもありがとうって言ったぞ! 何度も恥ずかしいじゃないか~。エヘヘヘ』


 パイモンに、『王』のことを親父って呼んでいたのは何故かと聞かれたので、正直に息子だと答えた。


『ええ――! 蓮は王の息子……王子だったのか!』

「パイモン、良く聞くんだ……俺は王子じゃない。パイモンが親父のことを『王』と呼ぶのは好きにすれば良いが、俺のことは今まで通り『蓮』だ。パイモンの友達の蓮だからな」

『えっ、友達……分かった。蓮は、ボクの友達の蓮だな!』

「ああ、そうだ」


 パイモンの顔が……緩んで締まりがない。食後、パイモンは、今から北海道に行くと言って消えた。そうだ、『パイモンが来た』メールを送っておかないと。


『パイモンが来た。今夜は俺のヒーローとして現れた』送信。


 この後――俺は参加しなかったが――何があったんだと、3人でやり取りをしていたようだ。パイモンはヴェントレー家の話は知らないから、偶々たまたま、俺がヴァンパイアに襲われたと思っただろうな。まあ、あの2人なら何を知られても問題ないと思う。


 サーマとアスタは、今日中に報告書を送ったようだ。イーサン・ヴェントレーの粛清は月城グループの最優先事項だからな。あっ、アスタ、下僕のヴァンパイアの灰を取っていないんじゃ……親父が一掃したから灰は残っていないだろうな。残念。


 ◇◇

 翌朝、起きてダイニング行くと、母さんと親父が座っていた。フェレスまでいる。サーマとアスタは既に話を聞かれたようで、後は俺だけのようだ。パイモンは呼ばなくて良いらしい。


 母さんが、俺を助けてくれたパイモンを、今後は狩らないでと親父に頼んでいた。そうだよな、あいつのおかげでイーサン・ヴェントレーを逃がさずに済んだんだ。俺からも頼みたい……あぁ、俺がパイモンを召喚すれば良いのか。


「母さん、俺がパイモンと契約するよ。そうすれば、リストに載らなくなるからな」

「それは良い案ね。蓮、お願いするわ。ふふ」


 親父たちが帰った後、サーマにパイモンを召喚する魔法陣を教えてもらい、正式にパイモンを召喚した。北海道で遊んでいただろうパイモンが、魔法陣の真ん中でキョトンとして俺を見た。雪まみれだな……。


『あれ? 蓮が呼んだのか?』

「ああ、俺が召喚したんだ。パイモン、俺と友達の契約をしないか? 悪いことをしなければ、ずっとこっちの世界にいても狩られないぞ」

『えっ、蓮がボクと契約してくれるのか! 良いのか?』

「ああ、パイモン、これからもよろしくな」


 俺が高校を卒業するまでの約2年間、俺の友達として契約する。その後、パイモンは自由だ……そういう契約にしたら、何かゴッソリ魔力を持って行かれた気がする。


『ううっ……ボクが蓮を守ってやるからな!』

「ああ、ありがとうな」


 パイモン、悪魔なんだから泣くな。折角の可愛い顔が……と言ったら怒るか。ついでに、俺の助手として『狩り人』にも登録させた。


「パイモン、依頼を受けた時は呼ぶから、それまで好きにして良いぞ」

『好きに……分かった。蓮、今まで通りにして良いんだな。ハハ』


 パイモンは、相変わらず俺→森さん→加茂さんの順に姿を見せて、どこかへ遊びに行く。メールには『蓮と契約したから海外にも行けるんだ! 今回はアメリカに行く。1週間後には帰るからな!』と書き込まれていた。今まで日本だけとか、そんな縛りは無かったはずだが……1週間後、冥界に帰るのか? まあ、自由にすれば良い。


 ん……パイモン、アメリカへはどうやって行くんだ? パスポートやお金は持って……いないだろうな。う~ん、次に会った時に聞こうか。


 パイモン、こちらの世界のルールを覚えて、『狩り人』の仕事も覚えような。俺は透明マントを覚える。




 —————————————————

 ※あとがき※

 この43話で完結とさせて頂きます。拙作にお付き合いくださり、ありがとうございました。


 時間が出来たら、SSや番外編を書きたいと思っています。(お約束は出来ませんが……)


 フォロー・♡・★を贈っていただき、感謝しています。<(_ _)>

 2022/05/14 Rapu

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ハイブリッドの狩り人 Rapu @Rapudesu

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