第32話 テーマパーク③

『蓮! 遊びに来たぞ~!』


 水色の目を輝かせてニコニコと手を振っている。


「月城君! あぁ、助かった。話が通じないんだ……」


 森さん、俺もこいつとは話が通じません。


「月城、お前の知り合いか?」

「先生、次にこのパイモンに出会ったら、先生はこいつの知り合いですか?」

「いや、違う……」

「先生が俺と同じ意見で良かったです」

「そうか……」


 先生が、「森、もう少ししたら渡辺先生が来るから、それまで任せたぞ。危なくなったら逃げろ」と言って、野球部がいるグラウンドの方へ行った。


「くそっ、陰陽師め……」

「えっ、先生?」


 まさか! 学校内にいる魔物を生徒に任せるとかダメだろう。あっ、森さんの方が先生より強いのか? それとも、封印に関係ないから陰陽師あるあるか? 森さんに聞いてみたいが、先にパイモンを何とかしないと……。


「パイモン、何故、ここに来た? 冥界に帰ったんじゃなかったのか?」


『この前、蓮を追いかけた仲間が、この辺りで姿が消えたって言っていたんだ。だから、この辺で探したら見つかるかと思って来たけど、正解だな! 蓮、3日以内に冥界に戻れば、こっちに遊びに来ても良いんだろう?』


 あの時、つけられたのか……分からなかったな……ん?


「パイモン、遊びに来て良いなんて言ってないぞ。だが、そうだな……先ず、お前と軍楽隊の魔力を押さえることを覚えろ。みんなが怖がるだろう? それが出来るようになるまで、こっちの世界に来るな」


 確かに、3日以内に冥界に戻ればリストには載らないが、魔物がそのままの魔力と姿でウロウロしたら迷惑だ。


『えっ、魔力を押さえるのか? こうか?』


 うおっ、一瞬で魔力を消すとは……軍楽隊まで魔力を消して器用な奴らだ。


「おっ、あの強い魔力が消えた! 上手いな~、これなら魔物だと分からないな。そっちの軍楽隊は見た目で分かるが」


『フフン! こんなの簡単だ』


 森さん、パイモンを褒めないで下さい。こいつ調子に乗りそうだから……。


「それとパイモン、軍楽隊は連れて来るな。冥界に置いて来るか、人が見ても驚かない猫とか鳥に化けさせろ」


『ええっ、ボクの仲間だぞ!』


「その姿だと、人間が驚いて祓い屋や狩り人に話が行って、お前達を狩りに来るぞ? それが出来るようになるまで、こっちの世界に……」


『うっ……、分かった。お前達!』


 パイモンは、俺に最後まで言わせず、軍楽隊に合図をした。軍楽隊の2体は黒い服を着た子供に変身して、残りの魔物は4匹の黒猫と色鮮やかな4羽の小鳥に変わった。見事だな……言わないが。


『蓮……これで良いか?』


「おわっ! 凄い……魔物には見えないぞ!」


 森さんが、目を見開いて驚いている。


『フフン! そうだろう。ボク達は凄いんだ! ボクはパイモン。お前、蓮の友達か?』


 森さんの言葉にパイモンが喜んでいる。この流れは……似ているな。


「ああ、俺は森翔太。月城君の友達だ」


『翔太! ボクも友達になってやる!』


「ええっ……可愛くても、悪魔の友達はいらないかな」


 あっ、森さんもパイモンが女の子だと思いましたね? ウエーブの掛かったブルネット――褐色の肩までの髪に、大きな水色の目をしている。整った顔で色白で華奢……女の子にしか見えないな。


「パイモン……今のお前達なら人間の振りをして遊びに行っても大丈夫だと思うが、悪いことはするな。それと、3日後には冥界に戻れよ」


『分かった! 蓮、遊びに行って来るよ~。翔太もまたな!』


「パイモン、もう来なくて良いからな!」


 飛び去るパイモンに大声で言ったが、振り返って笑顔で手を振ってくる……聞いていないな。


「月城君、いくら悪魔でも女の子にちょっと冷たいんじゃないか?」


 森さんが……無いとは思うが、好意を持つ前に教えておこう。


「森さん、あいつ男ですよ」

「何ーー! あんなに可愛いのに男なのか……悪魔、恐るべし」



 ◇◇

 それから1週間も経たない頃、森さんからメールが届いた。


『月城君、さっきパイモンが来た。何故、俺の所に来るんだ?』


『パイモンに、友達認定されたからじゃないですか?』


 森さんに返信すると、パイモンと友達になった覚えはないと返されたが、俺もそうですよと答えた。あいつに話が通じないのは、森さんも初めから分かっていたじゃないですか。


 その後、今度はパイモンが俺の住むマンションに現れた。朝から……ちゃんと魔力を隠して、後ろの子ども2人が黒猫を抱えて、小鳥が頭や肩に止まっている。結界が張ってあってベランダには降りられないからか、ベランダの外から大声で話し掛けて来た……宙に浮いていたら通報されるぞ?


『遊びに来たぞ! 蓮~、いるんだろう?』


 パイモンは、何故ここを知っているんだ……近所迷惑だから、仕方なくベランダに出た。サーマとアスタが付いて来て、呆れた顔をしてパイモンを見ている。


「パイモン……又、冥界を抜け出したのか?」


『蓮と友達だから顔を見に来てやったんだ! ちゃんと、3日したら帰るからな!』


「そうか……」


 わざわざ来なくて良いのに……そうだ、森さんにメールを送っておこうか。



 その後、パイモンは、こっちの世界に来たら、森さんか俺の所に姿を現すようになった。パイモンが来たらお互い『パイモンが来た』メールを送り合うんだが、俺の所に姿を見せたら、王と王妃には近付くなと注意するようにした。いつも目を逸らすが、『分かった』と返事をするから会いに行かないと思う。


 親父と母さんには、サーマとアスタから報告しているだろう。俺からは、親父に母さんに近付かないように言い聞かせていると言っておこうか。まあ、悪さしなければ……このままでも良いんじゃないか。


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