第17話

 魔物を召喚した家に行くと、立派な家の2階にある書斎の床に魔法陣が描かれていた。サーマが言うには、召喚者の能力と生贄次第だが、この魔法陣だと最高で侯爵クラスの悪魔や魔物を召喚出来るそうだ。


 この部屋には、魔法陣や魔物関連の本が並べてあったが、特に召喚した魔物の手掛かりなるような物はなかった。


「蓮様、魔物が関与したと思われる事件場所に向かいますか?」

「いや、止めておこう。手掛かりになる物はないだろうしな」


 ◇

 真夜中、明かりの少ない住宅街を注意して歩いていると、山手に強い魔力を感じた。


「現れたな。行こうか」

「「はい、蓮様」」


 周りに人がいないのを確かめ、山手に向かって飛び立った。


 バサバサバサッ――!


 空から魔力を感じる場所を見ると、そこは山の中にある寺院の一角で、敷地内にある墓で複数の魔力を持つ何かがうごめいていた。近寄って行くと……ゾンビ? には、見えないな。


「蓮様、獲物は既に隠れたようですね。動いているのはアンデッドです」

「サーマ、火葬で墓には骨しかないはずだが……みんな、綺麗な身体だな」


 海外の映画やドラマで見るゾンビは、土葬のせいか服や肉がボロボロのイメージがあるが、このアンデッドは……紫がかった肌の色をしているが、普通の体でグロテスクじゃない。


「蓮様、これは死者の魂を呼び出して、魔力で実体化しているみたいですね」

「実体化した亡霊……触れるってことか」


 中には怪我をしている亡霊もいる。7~8体ほどいるが、意思がある顔に見えて別々の方向に歩いて行く。


「サーマ、これは狩るんだよな?」

「そうですね。本来なら、この世界に存在する者達ではありませんからね」

「蓮様、狩り人も来たようです」

「ん?」


 アスタの視線の方を見ると、街の方から黒い上下のパンツスタイルの女性が、山道を登って来た。華奢きゃしゃだが日本刀を腰から差している。向こうが、空に居る俺達に気付いて、立ち止まって頭を深々と下げた。丁寧な対応だな。


「サーマ、アスタ、降りようか」

「「はい」」


 墓に下りて直ぐに狩り人が近寄って来たんだが、サーマが狩り人の前に立ち塞がる。狩り人は、足を止めて俺に向かって声を掛けて来た。


「蓮様、『狩り人』をしておりますヤクシーの八神と申します」


 ヤクシーって、確か女性の『夜叉』のことだったな。黒い髪を頭の上でポニーテールにしていて、目は青く、見た目は25歳位かな。日本人の顔立ちをしているが、どこかで見たような……あぁ、パーティーの参加者だ。


 サーマがすかさず返事をする。


「蓮様への直接の接触はご遠慮下さい。全ての交渉は、私に一任されています」

「申し訳ございません。蓮様のお姿を拝見出来たことが嬉しくて、つい……」


 あぁ、月城グループCEOの息子を知っていたら、声を掛けるのが普通だよな。


「サーマ、ありがとう。八神さん、全てサーマに任せていますから、依頼の話はサーマとして下さい。よろしくお願いします」

「はい! 蓮様」


 可愛いお姉さんが笑顔で答えているようにしか見えないが、『夜叉』か……強いんだろうな。


 八神さんの話では、昨晩も他の墓地で複数の亡霊が動き出したそうだ。しばらく様子を見たが、その行動に一貫性は無く、家に戻る亡霊や交通事故を起こした亡霊もあったそうだ。


「そうですか、事件や事故を起こす前に狩った方が良いですね。では、注意深く獲物を探しながら狩りましょう。宜しいですか?」

「サーマ、「了解」」

「了解です」


 手分けして、墓から出て行った亡霊の魔力を探して倒して行く。心残りがあるなら自由にさせても良いんだが……天国や冥界にいたのに、誰かを傷つけて地獄に落ちたら可哀そうだしな。


 1体、墓地から動かないのがいる。近寄って見ると、小さな男の子が両足を抱えて座っていた。


「君は、何故そこにいるんだ?」

『お兄ちゃんが……仮面の人? なぜ……ぼくを呼んだの?』


 小さな男の子が怯えている。


「いや、俺は誰も呼んでいないよ」

『そっか。ぼく……分からないんだ。友達と遊んでいたら、泣いている仮面の男の人に呼ばれて、返事をしたらここにいたんだ……』


 ……無理やり連れて来られたのか。


「そうか……君は、どうしたい?」

『ここは寒いから……ぼくは、友達の所に帰りたい』

「そうか、分かった。おいで、みんなの所に帰してあげるよ」


 男の子は俺に両手を差し出して来た。俺には、この子を刀で斬ることなんて出来ない……抱きかかえて、浄化の白い炎で男の子を包んだ。


 ボワッ――


『お兄ちゃん、暖かいね。フフ』

「そうか、暖かいか……良かった。お兄ちゃんが、君を無理やり連れて来た仮面の男を怒っておくからな。痛くないか?」

『うん、痛くないよ。お兄ちゃん、ありがと……』


 ニコッと微笑んだ男の子の姿が消えて、腕には小さな骨が残った……ムカつくな。残った骨を……男の子が座っていた墓に埋めた。


 振り返ると、3人が黙って俺を見ている。どこから見ていたんだ? えっ、アスタがずっとそばにいたのか……。アスタと八神さん、そんな顔を向けないでくれ……落ち着いたのに、またムカついてくるじゃないか。


 俺は、母さんが人間だった時の血を半分受け継いでいるから浄化が出来るみたいだ。そして親父の血の影響か、ヴァンパイアになったからか分からないが、普通の聖職者よりも力が強い。


 浄化は、その魂に穢れがあれば最初は痛がるんだ。だから余り使わないが、痛くないと言ったあの子は穢れのない魂だったんだ……また、ムカついて来た。


「蓮様、先ほど男の子の話で魔物が分かりました」

「ええ、蓮様、涙の仮面を付けている悪魔がいます」


 サーマとアスタの言葉に、八神さんと俺が反応した。


「獲物は、悪魔なんですね」

「サーマとアスタが知っていると言うことは、冥界の悪魔か」


 2人の話を聞くと、涙の仮面を付けている魔物は、プラとかプラージと呼ばれている悪魔で、死者を呼び起こす忘却の堕天使と言われているらしい。


 夜中の1時過ぎまで見回ったが、今夜はもう現れないだろうということになり、京都のマンションに戻った。


 ◇◇

 そして翌朝、サーマからリストにプラージの名前が載ったと知らされた。魂をもてあそぶ最悪の悪魔だ。



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