第2話
綺麗な芸妓さんが一人、近寄ってきた。20代後半かな……お座敷の帰りなのか、頬を染めて少しお酒が入っているように見える。
「こんばんは」
サーマが、チラッと俺を見てから返事をした。芸妓さんの相手をするようだ。
「まぁ~、本当に綺麗な顔をしているわね~。こんなイケメン達が女を連れていないなんて、まさか、女嫌い? それとも、これから遊びに行くのかしら~。フフ」
普通、舞妓さんや芸妓さんは「どすえ~」って話すんじゃないのか? 京言葉じゃなく標準語で話している……怪しい。
「フッ、女性は好きですよ。一見客でも入れる、良さそうな店を探しているんです」
ああ、サーマに……その良い声で微笑まれたら、ほとんどの女性は落ちるよな。
「いや~ん! お兄さん、声も良いわ~。私ね、良いお店を知っているのよ~。坊やも一緒に遊びましょう。フフフ、こっちよ~」
サーマを見ると、微笑みながら軽く頷いている。じゃあ、誘いに乗ろうか。ニコニコと微笑む芸妓さんに案内され、花見小路通を抜けて八坂神社の階段下に来た。
「神社の中を抜けた奥にあるのよ。凄くイイお店がね~。フフ」
「それは楽しみですね。フフ」
サーマが愛想よく答えるが、如何にも怪しいお誘いだな。芸妓さんがにっこり俺に手を伸ばした……階段を上がるのに手を引いて欲しいのかな? そう考えた瞬間、笑みを浮かべたサーマが前に出て、芸妓さんの手を取った。
「私が」
「まぁ、お兄さん、おおきに~」
「フフ、どういたしまして」
サーマはこういう時、動きもスマートだし慣れているよな。境内に入って、誘われるまま進んで行く……。
そして、小さな社の近くで、芸妓さんが足を止め、こちらを見て嬉しそうに笑った。
「ウフフ、ここで楽しみましょう~。あなたたち、本当に美味しそうね~。ねえ、私を見て……フフ」
芸妓さんは、着物の帯を解きながら一気に魔力を開放した。綺麗な目が赤く染まって妖艶に笑う。その変貌にドキッとする……あぁ、俺たちに魅了を掛けたようだ。
「魔力……見つけた。お姉さんが、この前人間を食べたサキュバスだな」
「フフ、蓮様、当たりでしたね」
芸妓姿のサキュバスが取り乱す。
『えっ! 魅了が効かない? 何故……』
魅了が効かなくて残念だったな。耐性を持つ者や格上の相手には、状態異常の攻撃は効かないからな。
アスタが、電光石火のスピードで飛んで来て、俺の前に降り立ちサキュバスを睨んだ。そのサキュバスなら俺一人でも余裕で倒せるのに、それを分かっていて俺の前に出るんだから。アスタは相変わらず過保護だよな。
「おまえ、蓮様に汚らしい物を見せようとするな……」
『何ですって!』
アスタ、女性にそれは言い過ぎじゃないか? 取り乱しているが、乱れた着物姿の色っぽいサキュバスだよ。
「蓮様、アスタが、よくキレずに我慢できたと思いませんか? フフ」
「本当だ。アスタ、約束通りに殺気を飛ばさなかったな」
「蓮様に褒められるのは嬉しいですが、サーマは黙りなさい。蓮様、こいつは私に狩らせて下さい。許さない……蓮様の手を取ろうとするなんて!」
俺の手を取る? あぁ、階段でのことを言っているのか。
「ああ、分かった。アスタに任せるよ」
「さっきの階段下で、蓮様が芸妓の手を取っていたら、アスタは速攻で狩りに来たでしょう。魔力の確認もしないで」
「当たり前です。蓮様から手を差し伸べたのなら我慢しますが、それ以外は許せません」
なんだって、それは困るよ。魔力を確認してから狩るのがルールだからな。それで、サーマが前に出て手を取ったのか。
『お前達は祓い屋か!?』
そう言えば、祓い屋の護符に状態異常の攻撃を防げるのがあったな。俺たちは『祓い屋』じゃないが、今回は祓い屋からの依頼だ。
しかし、たった1件の不審な死体が出ただけで依頼が来るなんて早過ぎる。普通は、同じ事件が数件発生した後、祓い屋なり陰陽師に依頼が行って、手に負えない案件が回って来るんだ。被害者か、その親族が同業者だったのかもな。
「お前が知る必要はない。さっさとあちら側へ返してあげるわ!」
『なっ! あちら側ですって……グッ! 蛇? いつの間に……』
アスタは、いつの間にかサキュバスの背後に黒蛇を忍ばせ噛ませた。直ぐに蛇の神経毒で動きがおかしくなる。そこを素早く、剣で心臓を一突きにして首を落とした。相変わらず見事な動きだな。
しかし、サーマなら分かるがアスタが獲物の首を落とすとは……そんなに怒ったのか? この程度で怒るとは……気を付けないと。
サーマが、獲物の写真を撮ってコンサルタント会社へ送った。魔物の残骸は、種類にもよるが数分で地面に消えてしまうからな。そして、リストを取り出し確認している。
「蓮様、やはりリスト組でした。名前の1つが赤色になりましたよ」
「そうか、了解」
この後、倒した魔物の懸賞金額が確定して、振り込まれたらリストから名前が消える仕組みになっている。親父がコンサルタント会社を作ってから、リストの名前は減ったらしいが、
「蓮様、獲物を任せて頂いてありがとうございます」
「アスタ、お疲れ。帰ろうか」
◇◇◇
数日後、依頼料は200万振り込まれていたが、リストの懸賞金が500万もあった。普通は、50~100万程の懸賞金だが、あのサキュバス、こっちの世界に来てかなり悪さをしていたんだな。
臨時報酬が入ったから、今日は3人で駅近くの焼き肉店に来た。サーマに、個室のある店を予約してもらった。2人がいれば、学生でも星が付いている店でも入れるからな。必要なマナーは、その都度2人から教えてもらうんだ。
「蓮様、鮮度の良いレバーを頼んでいますが、召し上がりますか?」
「ああ、食べる。サーマ、ありがとう」
焼き肉を食べに行く時は、俺の好物のレバーを用意してくれる。サーマが店を選ぶ時、契約金を添えて食中毒になっても訴えないと一筆書くそうだ。だから焼き肉を食べる時は、決まった店にしか行かない。京都はこの店に決まったんだな。
「あぁ~、美味しい!」
この癖のある味と食感がたまらない。そのまま生でも良いが、軽く
「蓮様が美味しそうに食べる姿を、
「ああ、報告か。サーマ、適当に撮って良いよ」
「蓮様! 私も
月に1度、2人は親父と母さんに俺の写真を送るように言われているらしい。送らないと給与が出ないそうだ。給与よりも両親の説教が嫌なんだと思う。
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