第9話

 茨木童子の狩りが終わり、ここ数日、校内放送もなく普通の学校生活に戻った。放課後も、クラブ活動が再開して校内はにぎやかだ。


「やっと、バスケの練習に打ち込めるよ」

「そう言えば、中井君、もうすぐ試合だったな」

「うん。月城君、暇だったら試合見に来てよ。今度の金曜の放課後、ここの体育館でやるんだ」


 中井君に、バイトがないから応援に行くと話をしていたら、伊藤さんが口をとがらせてこっちに来た。


「中井~、月城君、聞いてよ~。やっと、親戚の集まりから開放されたのにさぁ……」


 毎晩のように親戚の集まりがあって、おばさん達とお茶を出したりして手伝っていたのがやっと終わったらしい。あぁ、見回りをしていた陰陽師たちのお世話をしていたのか。


「従弟の悠斗がね。調べ物があるから手伝えってうるさいのよ~。こっちは、バスケの練習でヘトヘトなのに~!」

「僕なら断るな~。クラブの後は、帰ってご飯食べて寝るよ」

「だよね~!」


 クラブの後に呼び出されるのは辛いな。俺も狩りの後はゆっくりしたい。


「調べ物なんて一人で出来るんじゃないのか? 伊藤さん、何を調べているんだ?」

「あぁ~、それはチョット詳しくは言えないんだけどね。学校の図書室で、昔に書かれた……陰陽師の式神? について調べているのよ~。もうね、意味不明だよ」


 えっと、伊藤さん。十分に詳しく話してくれていると思うが、式神が意味不明って……加茂さんが式神を持っていることを知らないのか?


「ああ、伊藤の従弟は、そっち系が好きだったな」

「家系だからよ~。まあ、『僕は陰陽師だ』と言うくらいだから、好きなんだろうけどね~」


 ああ、伊藤さんは、加茂さんが陰陽師だと信じていないのか。加茂さんは、俺達が茨木童子を軽々と倒したから、もっと強い式神を欲しがっているのかもな……先祖は強い式神を使役していたからな。


 ◇◇◇

 金曜の放課後、中井君のバスケの練習試合を見に体育館へ行った。中はバスケ部員と相手校の部員たちが準備運動をしている。邪魔にならない場所に移動しようか。


「月城君~! こっち、こっち~!」

「あっ、月城君だ。ここだよ~!」


 俺を呼ぶ声が聞こえた……見ると、伊藤さんと平野さんが2階から手を振っている。これは無視する訳にはいかないので、「ああ」と手を上げて、体育館の2階へ行き女子に並んで試合を見ることにした。う~ん、こういうのは初めてだな。


 バスケ部員の準備運動が終わり、1年の試合が始まった。あっ、中井君だ……隣の声が熱いな。


「中井――! 走れ~!!」

「中井! 止まるな~! 行け――、シュート~!」


 あちこちからの声援に、段々と気分が高揚していく。ん? あいつ……応援している上級生の中に魔力がチラチラ見える奴がいる。背が高くて高校生にしたら筋肉がついているが、魔物が高校生に化けているのか?


 ブウゥ――、


 サーマからのメールが届いた。


『魔力が見え隠れする生徒は、先日お話した祓い屋の息子です。名前は森翔太もりしょうた。魔物ではなく、魔物の血が少し入っている人間です。』


 あぁ、この前言っていた2年生は、魔物の血が入っているのか……俺と似ている。


 ブウゥ――、


『父方に魔物の血が混じったようですが、魔物の種族は分かりませんでした。』


 へぇ~、狩られずに生き延びているんだ。人間から隠れることは出来るだろうが、魔物には見つかるだろう。魔物には、縄張りを持つヤツが多くて、テリトリー内に入った他の魔物を狩るからな。ああ、だから祓い屋を生業なりわいにしているのか。


 今日の護衛はサーマか。『狩り人』になってから、狩りの時は2人に付いて来てもらうが、普段の護衛は1人で良いと言ってある。サーマは、いつも俺が欲しい情報を教えてくれる。


『了解。サーマ、調べてくれてありがとう。』


 1年生の試合は残念ながら中井君達が負けた。続いて2年、祓い屋の息子を注意して見ていたが、平均的な動きをしている。わざとか? それとも魔物の血が少ないから人と変わらないのか?


 練習試合が終わって、みんなで中井君に声を掛けた。


「「中井~、お疲れ!」」

「中井君、半分以上の得点は中井君のシュートだったな。凄いよ」

「みんな、見に来てくれありがとう。勝ちたかったんだけどね……」


 中井君が悔しそうに言うのを見て、伊藤さんと平野さんが茶化しながら慰めている。中井君は、この後、先輩達と反省会でどこかに行くらしいので、中井君とは体育館で別れた。


 伊藤さんと平野さんに、食べに行こうと誘われたが、祇園の時のアスタの殺気が頭をよぎって……断った。


「伊藤さん、平野さん、ごめん。今日はこの後用事があるから帰るよ」

「了解~。月城君、また来週ね!」

「月城君、又ね~!」

「ああ、誘ってくれてありがとう」


 一緒に行ったらアスタが怒りそうだ。一般人には手を出さないだろうが、またメールで『蓮様、夕食は食べられますか?』って聞かれるのも面倒だし。


 ◇

 夜、夕食を食べながらアスタに聞いてみた。


「アスタ、今日、学校の同級生に食事を誘われたんだが……」

「蓮様。蓮様が行きたいと思われたのでしたら、どうぞ参加して下さい。食事など、どうとでも出来ますから。フフ」


 確かに、亜空間に食材を入れておけば傷むこともないし、温かい料理もそのままだからな。


「女の子でも怒らないか?」

「ええ、ペンダントを付けている蓮様に声を掛けるのは、素直な良い心の持ち主ですから怒りませんよ。蓮様に害をなそうとしなければ、例え魔物でも……フフ、蓮様の許可なしでは狩りませんから安心して下さい」


 アスタにニッコリと返されたが、言い方が怖いよ。


「そ、そうか……」


 アスタ、ペンダントを付けている時は気にしなくて良いんだな。了解。



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