第4話

 中井君達とは明るいうちに別れたが、夜は早い時間から魔力を感じた……水族館の方角だな。


「サーマ、ちょっと様子を見に行って来る」

「蓮様、気になりますか?」

「ああ、夜中に起こされるのは困るし、気になって寝られなくなりそうだ」


 アスタが、「蓮様、ちょっと行って狩って来ましょうか?」と言うが、依頼が来ていないから手出しは出来ない。同業者の獲物に手を出したらマナー違反になるからな。


「アスタ、獲物の横取りはダメだよ。陰陽師の狩りを見たいから、アスタも一緒に見に行こうか?」

「はい、蓮様。お供します。フフフ」

「蓮様、私も行きます」

「ああ。サーマ、ペンダントを外して行くから俺の魔力を隠してくれ。100%隠せるようになったが、まだ怪しいから頼むよ」


 ペンダントを付けたまま飛んで、誰かに見られたら面倒だからな。


「はい、蓮様」


 ペンダントを外して、背中に意識を集中させる……


 バサバサッ――!


「はあ~、蓮様の翼を見るのは久しぶりです。何て綺麗なのかしら……」

「ああ、蓮様の翼は特別だ。誰も持っていない、唯一の銀……素晴らしい」


 2人とも、そんなうっとり見ないでくれ……照れるよ。


「えっと、ありがとう」


 そう、俺の翼は銀色で羽が6枚あるんだ。普通、羽と言えば……魔物は褐色か黒で、天使は白と言われている。親父は黒い羽を持っているが、母さんは持っていない――俺がお腹にいる時、人間で巫女だった。


 今は、翼を出さないと空を飛べない。もう少し魔力が安定したら、翼を出さなくても飛べるようになるらしい。アスタは、風を感じたいと言って翼を広げて飛ぶが、サーマは翼を出さない。本気を出す時だけだ。


 ベランダから水族館の方に飛んで行くと、公園にある池の近くで5~6人……あれが陰陽師か。スーツを着た人もいるが、他はカジュアルな服装をしているから普通の人と見分けられないな。


 そして、3匹の大型犬が魔物を囲んでいた。あれは……悪鬼と呼ばれる人間に災いを与える鬼だ。2m近くあるかな……ムキムキした色黒の大きな体で、ボサボサの黒い髪から2本の角が見える。ギラギラした大きな目で口から牙が見えている。


「蓮様、陰陽師は犬神を式神として使役しているようですね」


「アスタ、あれが犬神……初めて見たけど、犬にしか見えないな」


 シベリアンハスキーみたいな顔をしているから、誰かに見られても普通の大型犬にしか見えない。


「陰陽師が5~6人いるのに、犬神が3体なんて少ないですね。普通、一人で2~3体の式神を使役するのに」


「アスタ、それは昔の話で、今の陰陽師は式神を使える者が少ないんだ」


 サーマが言うには、コンサルタント会社が把握している式神を使える陰陽師は、10人程しかいないそうだ。式神を使役できなくても、霊力があれば訓練次第で魔物の気配を感じることは出来るだろう。


 異形の魔物は見て分かるが、人に化けている魔物は分からない。そういう時、魔力を感じ取って魔物を見つけるんだが、式神が使えないと倒すのに時間がかかりそうだな。


「そんなので、よく狩りをしているわね」

「アスタ、今の陰陽師が先頭を切って動くのは、昔の陰陽師が残した封印を守る為だけだ」


 じゃあ、この悪鬼は、この近くにある封印を解こうとして現れたのか。だが、悪鬼1匹だけでは封印を解くことなんて出来ないだろうに。


「サーマ、陰陽師が動くのは封印関連だけなんだな?」

「蓮様、その通りです。陰陽師は他からの魔物狩りの依頼は受けていないようです。封印の警備だけで手が回らないんでしょう」


 なるほど。ん? あの陰陽師たち、どこかで見たことが……あっ、歴史と体育の先生だ。若い陰陽師もいるな……サーマが言っていた3年生の陰陽師か?


 犬神が鬼を攻撃し、陰陽師たちが呪文を唱え始めた。


『臨・兵・闘・者……』


 あれが、呪力を持つと言われる九字か……あっ、悪鬼が顔を歪ませて苦しそうだ。


『グガガガ――!!』

『青龍! 白虎! 朱雀! 玄武!……』


 陰陽師たちの声が一際大きくなった。刀を持つ陰陽師が悪鬼に突っ込んで行く。


「蓮様、終わりそうですね」

「ああ、サーマ、寝不足の心配がなくなって良かったよ。帰ろうか」

「蓮様、もう少し夜の散歩をしませんか?」

「そうだな……アスタ、散歩するなら清水寺に行ってみたい」


 北東の山を指差して飛んだ。京都に来たら、清水寺と伏見稲荷へ行ってみたかったんだ。


 京都駅を越えて東へ飛んで行くと、山手に清水寺が見えた。そして、有名な舞台に降り立つ。


 ここがことわざになった清水の舞台か……ここから飛び降りようとは思わないだろう……と思いながら、まだ桜が残っている夜景を眺めた。


「蓮様、そろそろ戻りましょうか。余り遅くなると、明日の朝、起きられなくなりますよ」


 ああ、朝は苦手なんだ。魔力が増えてから特に朝起きるのが辛い。


「そうだな。サーマ、帰ろうか。あっ、そうだ……」


 俺が、ここからマンションのベランダまで競争しようと言うと、サーマが眉をピクっと動かした。


「蓮様、競争しなくとも、結果は決まっていますよ」

「サーマ、遊びだよ。じゃあ、スマホの時間で00:00にスタートだ」

「蓮様、サーマ、負けませんからね。フフ」


 サーマが余裕の表情だが、最近、俺の魔力も増えて早く飛べるようになったんだ。アスタや翼を出さないサーマと良い勝負が出来ると思う。


 スマホの時間が00:00になり、一斉にスタートした。先頭は、アスタと俺が良い勝負! このまま一気にゴールだ――


 バサバサバサッ――!


「「えっ……」サーマ……」


 サーマが漆黒の大きな6対の翼……12枚の羽を出し、俺たちを軽々と抜き去って行った。


「大人げないな……」

「蓮様、サーマは、負けず嫌いですから……」


 サーマがズルした訳じゃないが、本気を出さなくても良いだろう……遊びなんだから。




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